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『軽蔑』廣木隆一監督「スクリーンから原作の空気感を感じ取ってほしい」

インタビュー

『軽蔑』廣木隆一監督「スクリーンから原作の空気感を感じ取ってほしい」

夜の街に生きる男と女が、周囲から拒絶されながらも自分たちの居場所を求めてさまよう姿を描いたラブストーリー『軽蔑』(6月4日公開)。そんな本作でメガホンを取ったのが『ヴァイブレータ』(03)をはじめ、『余命1ヶ月の花嫁』(09)、『雷桜』(10)など、数々の話題作を手掛け続ける鬼才・廣木隆一監督だ。今回は廣木監督に、本作に込めた思いや、キャスティング、ロケーションへのこだわりについて語ってもらった。

まずは『軽蔑』が製作されることになった経緯について。監督は、芥川賞作家・中上健次の作品を映画化することに、特別な思いがあったことを明かしてくれた。

「僕が映画業界に入った頃、中上健次さんの小説は若者の間で絶大な人気を誇っていて、映画になった作品もたくさんありました。それで、僕もいつか撮ってみたいと思っていたんです。その中でも『軽蔑』は特に好きな作品で、何年も前からずっと企画を温めてきました。登場人物の造形には執筆当時の風俗が反映されているので、ちょっと破滅的なところがありますが、ストーリー自体は希望のある作品だと思っています。映画では、どんな逆境でもしっかりと向き合い、一緒に生きていこうとする男女の姿を通して、希望が見出せるように描いたつもりです」

本作の主人公は、博打に溺れ、自堕落な生活を送る男・カズ。監督にとって、この役を演じられる俳優は高良健吾以外に考えられなかったという。

「原作では真知子の視点から物語が描かれましたが、映画ではふたりの姿を客観的にとらえて『男と女は、五分と五分というセリフのとおり、カズと真知子を平等に描きたかったんです。そこで、駄目な主人公を人間味あふれる芝居で表現してくれるのは高良健吾君しかいないと思い、彼に出演を依頼しました。以前、『M』(07)という作品で一緒に仕事をした時は、無我夢中で役に取り組む姿が印象的でしたが、今回は役そのものになりきってくれて。この数年で彼が役者として成長したことがわかり、嬉しかったですね」

そんなカズとは対照的に、もう一人の主人公・真知子のキャスティングは難航を極めたという。

「真知子は、夜の街で生きる力強さや妖艶さだけでなく、母親のような優しさも併せ持つ女性なので、その両面性を表現できる女優を探し出すのには苦労しました。企画が動き始めた頃から、いろんな映画やドラマ、舞台を見て回り、ようやく鈴木杏さんに巡り合ったわけです。彼女は真知子という役を、自分の年齢で、今だからこそ見せられる表情や芝居で見事に演じてくれました。あのあどけなさと母親的なエロスは、杏ちゃんだからこそ表現できたものだし、彼女でなければ、真知子というキャラクターは成り立たなかったはずです」

キャスティングのみならず、ロケーションにも徹底してこだわった廣木監督。「原作の空気感を画に収めたい」という強い思いから、撮影は原作者・中上健次の故郷、和歌山県新宮市で敢行された。

「映画の話が決まった段階で、中上さんのお墓参りにうかがったのですが、その時に新宮の町並みを歩いて回って、原作の空気感を感じることができたんです。僕だけじゃなく、スタッフやキャストも『軽蔑』の舞台である新宮まで来て、その雰囲気をつかみとれば、絶対に面白い映画が作れると思い、現地でロケを敢行することに決めました。具体的な特徴を挙げるなら、新宮はとにかく水が豊富で川も綺麗な町なんです。それに山と海がものすごく近い距離にあって、自然を間近に感じることができる。そういう人と自然が一体となった独特の空気感は、劇中にもしっかり反映されていますよ」

劇中後半では約10分間1カットの長回しにも挑戦するなど、全編にわたって監督のこだわりが光る意欲作『軽蔑』。本作鑑賞時は俳優たちの熱演に加え、新宮ならではの美しい風景にも注目して、その空気感を存分に味わってもらいたい。【六壁露伴/Movie Walker】

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