東日本大震災から10年目…日本映画は“3.11”にどう向き合っているのか?

コラム

東日本大震災から10年目…日本映画は“3.11”にどう向き合っているのか?

2011年3月11日に起きた東日本大震災から、10年目を迎えた本日。その震災により発生した、福島第一原子力発電所での事故に立ち向かった作業員たちの真実に迫った映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)が現在公開中だ。

佐藤浩市が最前線で指揮をとる1・2号機の当直長・伊崎を演じている
佐藤浩市が最前線で指揮をとる1・2号機の当直長・伊崎を演じている[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

本作のタイトル“Fukushima 50”とは、福島第一原子力発電所での対応業務に当たった人々のうち、事故が発生した後も現場に残った約50名の作業員に対する海外メディアの呼称だ。

予想外の大津波による浸水で全電源を喪失した福島第一原発。このままでは最悪の場合、メルトダウン(炉心溶融)を引き起こし、東日本が壊滅するかもしれないという危機的事態に。なんとか回避しようと作業員たちは奔走するが、様々な予測不能の出来事が次々と発生してしまう…。

1・2号機中央制御室での手に汗握る状況が描かれる
1・2号機中央制御室での手に汗握る状況が描かれる[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

“東日本大震災”というテーマに向き合った日本映画たち

10年目を迎えるとはいえ、現在も被災地や人々の心に大きな傷跡を残している東日本大震災。それだけに扱いの難しいテーマだが、『Fukushima 50』のように、そこに向き合おうとする作品の公開も続いている。

一つは、“天国につながる電話”として大切な人と死別した人々の心の拠りどころとなっている岩手県大槌町に実在する電話ボックスをモチーフにした『風の電話』(公開中)。震災で家族を失い広島の親戚の家で暮らす女子高生のヒロインが、再び故郷へ足を運ぼうとする道中で、様々な人と出会い勇気づけられ、前へ進もうとする姿が描かれる。

岩手県大槌町に実在する電話ボックス“風の電話”をモチーフにしたヒューマンドラマ『風の電話』
岩手県大槌町に実在する電話ボックス“風の電話”をモチーフにしたヒューマンドラマ『風の電話』[c]2020映画「風の電話」製作委員会

このほか、綾野剛と松田龍平が共演した『影裏』(公開中)では、主人公の青年が震災によって行方不明となった親友を追い求め、3月20日(金・祝)に公開となる『弥生、三月 -君を愛した30年-』では、運命で結ばれた男女2人の激動の30年を映すなかで、震災が物語の重要なファクターとして登場する。

芥川賞受賞の同名小説を「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督が映画化した『影裏』
芥川賞受賞の同名小説を「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督が映画化した『影裏』[c]2020「影裏」製作委員会
運命で結ばれた男女の激動の30年を描く『弥生、三月 -君を愛した30年-』
運命で結ばれた男女の激動の30年を描く『弥生、三月 -君を愛した30年-』[c]2020「弥生、三月」製作委員会

これらはいずれも、心に傷を抱えた登場人物たちに寄り添った作品だが、『Fukushima 50』では原発事故そのものに迫り、その時なにが起きたのか、というテーマに取り組んでいる。

リアリティをもって震災を再現する『Fukushima 50』

たとえばセット一つとっても、映画のメインの舞台となる1・2号機中央制御室と緊急時対策室は、限りなくリアルかつ大規模なものが用意され、中央制御室の壁に並ぶ計器類は、すべて福島第一原発で使用されていたものと同じデザインを再現。実際に勤務経験のある人もそのクオリティに驚いたほどだ。そこで撮影が行われた1号機原子炉建屋の爆発シーンでは、天井や蛍光灯を実際に落下させるチャレンジングな撮影とパニックに陥る姿を迫真の演技で体現した俳優たちの力もあり、迫力ある映像で事故の恐ろしさをリアリティをもって表現していく。

1号機の爆発シーンなど、抜群の迫力で事態の凄まじさを描いていく
1号機の爆発シーンなど、抜群の迫力で事態の凄まじさを描いていく[c]2020『Fukushima 50』製作委員会
現場と上層部、官邸との衝突などドラマ性を帯びたエンタメとして、誰もが理解できる作りとなっている本作
現場と上層部、官邸との衝突などドラマ性を帯びたエンタメとして、誰もが理解できる作りとなっている本作[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

これら事故発生時の風景に加え、ギリギリの対応を強いられる現場と上層部との衝突など裏側で行われていた生々しい混乱も描写。当時、日本がどれだけ危機的な状態にあったのかを観る者にあらためて思い知らせていく。

10年目に入るいまだからこそ震災の記憶を風化させないためにも、熾烈極める最前線に立った現場の人たちの姿を知り、ぜひ考えるきっかけにしてもらいたいと思う。

文/トライワークス


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