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イニャリトゥ監督とハビエルが語る『BIUTIFUL』の魅力

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イニャリトゥ監督とハビエルが語る『BIUTIFUL』の魅力

『バベル』(07)のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が最も描きたかった、現代社会の闇の部分をスペインを舞台にリアルに描写。破綻した家族を支える男が自分の末期がんを知り、葛藤する姿を切々と綴った『BIUTIFUL』(公開中)。本作で主演を務めたハビエル・バルデムは、第63回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞、また2010年度アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされた。その本作の魅力をふたりがたっぷり語った。

――本作で一緒に仕事をした時、2つの隕石の衝突みたいだったとハビエルは言いましたが、この意見についてどう思われますか?

イニャリトゥ監督(以下、イ)「私たちはお互い、非常に神経を使い、大変な労力を要する疲れる仕事になることがわかっていた。というのも、そのように役柄は描かれていたし、この映画は一人のキャラクターがストーリー全体を推し進めていくので、その人間の肩に全てがかかるように書かれていたからだ。そのうえ私は口やかましく、細かなことにこだわるタイプの監督で、要求することが多い。自分がやればできることや、自分に課すことぐらいのことだけどね。でも自分で素晴らしいと感じるものが得られるまでは50テイクだってやる。あの役柄は癖が強いから大変な撮影だったよ」

――これだけ監督とキャラクター作りなどを丹念に話し込むと、役柄から抜け出るのは難しかったんじゃないですか?

ハビエル(以下、ハ)「もちろんテイクごとにリアルさや誠実さをもって演じたいと思うよ。でもある一線があるんだ。その線は簡単に越えることができて、越えると物語という世界で迷子になってしまうんだ。僕はできるだけ自分を守ろうとしたが、時々あがなえなくなる。そこにはまってしまうんだ。時には週6日とか、5ヶ月間とかね。この重い題材では、自分が彼だと思うというのではなく、自分がどんな人間なのか、違いがわからなくなるんだ。違う所にいるんだとわかっていても、その場所がもうわからなくなるんだ」

――自分の人生の終焉を目前にしたウスバルは、自分のやり方を変え、生きようとします。この作品のテーマは何でしょうか?

イ「人は誰でも自分がいつ死ぬかを知らされたら、それが3日後でも3年後でも10年後でも、日付を知らされたら、別の人生を送るはずだ。これには確信がある。この作品は、終わりから人生を見直したものだ。だから死をテーマにした映画ではなく、人生を描いたものであり、別のアングルから人生を見直したものと言える。我々が逝く前に考える様々なことややり残したことについての映画なんだ。愛について、許しについて、憐れみについて、整理すべきことについて、自分がやりたいことについて。ウスバルが体験するのは、そういった旅であり、それが映画のテーマなんだ。この映画は“もし○○だったら”を問いかけているんだ」

――このような大作の主要人物に俳優でない人間を起用するのはリスクではありませんか?

イ「もちろんだ。失敗もあり得るからね。だからこそ、長い時間をかけて、ふさわしい人間を選んだんだ。半年間で1000人のオーディションを行ってから撮影したんだ。一番大変だったのは彼らを見つけることで、さらに求めていた無垢な状態を失わないようにしなければならかかったことだ。だからリスキーではあったけど、今回は幸運だったね。難しいことだし、冒険だったのは事実だ。そして長い時間がかかったけど、彼らを見つけ出せた時は嬉しかったね。彼らは映画にリアリティーを与えてくれたんだ」

――子供たちが物語の中核に位置していますが、キャスティングは簡単でしたか?

イ「正直言って、子供のキャスティングには苦労したんだ。撮影が始まる二週間前になって、ウクスバルの娘役の女の子を見つけたんだよ(笑)。撮影場所の学校へスカウトに行ったら、彼女が私の背中を叩いて『何しているの?』と聞いてきたから『映画を撮るんだよ』と答えたんだ。すると彼女が勝手に押しかけてきたんだが、まさにぴったりだったんだ。彼女の父親はモロッコの出身で、彼女にはスペイン人風なアクセントを求めていたんだが、よくやってくれたよ」

――主役を務めたハビエルは、俳優ではない人々との共演はいかがでしたか?

ハ「この映画は脚本に書かれていたことが全てスクリーンに映し出されている。役が良いキャラクターでないと良い演技をするのは難しい。この映画の場合はキャラクターも脚本も良かったので下手な演技をする方が難しかった。しかし、私の役は子供がいて初めて成立する。子供役のふたりは演技も撮影も初めてだったが、とても演技が自然で生命力があふれていた。彼らは強烈で厳しい関係にあるウスバルとマランブラの間で板挟みになるという役を演じるので、それがフィクションだと伝えてそのイメージを持ち帰らないように気をつけよう、と監督と話していた。しかし、彼らは現実との切り替えが私よりも上手で、どうやってそんなことできるのか教えてほしかった。私はキャラクターに囚われてしまう性質なので、この映画は子供たちとの関係が中心的で重要な要素だ」

――ウスバルの妻を演じる女優探しには難航されたそうですね?

イ「実はスペインであの役(=マランブラ)にふさわしい女優が見つけられなくて、絶望的になっていたんだ。有能な女優があまりいないという意味じゃなく、実際にいるわけだからね。ただ、あの役にふさわしい、私が求める気質を持った人を見つけられなかったんだ。それでアルゼンチンで何度かオーディションを行って、マルセルに幾つかのシーンを読んでもらったら、彼女が適役だと感じたんだ。冒険だったが、すぐ彼女がはまり役だと思った。そこで彼女にスペインに来てもらって、本読みをしてもらい、決めたんだ。彼女は非常に才能のある女優だよ」

――マリセル・アルバスと共演してみていかがでしたか?

ハ「彼女はこの映画の役に果敢に挑んでいたと思うよ。たしか彼女にとって、これは二本目の映画だと思う。彼女にはとても責任があったし、役は複雑だった。だが彼女はそれを謙虚に率直に受け止めた。まるで『過ちを犯すこともあるだろうし高潔な気持ちで演じるけれども限界といったものもある。全てをさらけ出してここにいます。でも最善を尽くします』って言っているみたいだった。僕にはできなかっただろう、とても勇気ある行為だよ」【Movie Walker】

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