『サラの鍵』ジル・パケ=ブレネール監督が語るホロコーストとその思い|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『サラの鍵』ジル・パケ=ブレネール監督が語るホロコーストとその思い

インタビュー

『サラの鍵』ジル・パケ=ブレネール監督が語るホロコーストとその思い

フランスの暗部とも言える“ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件”、通称ヴェルディヴ事件。それは1942年7月、ドイツ占領下のパリでフランス警察によって行われた。一斉検挙で逮捕された約1万3000人ものユダヤ人は、アウシュビッツなどの収容所に移送される前の数日間を、このヴェロドローム・ディヴェール(=冬の自転車競技場)に監禁されたのだった。フランス政府は1995年、時のシラク大統領が謝罪するまで、その一切の責任を認めていなかったというまさに暗部なのだ。今年7月に公開されたジャン・レノ、メラニー・ロラン出演『黄色い星の子供たち』でも描かれたヴェルディヴ事件だが、本作『サラの鍵』はまさに本命とも言える作品だ。昨年の第23回東京国際映画祭でも観客賞と最優秀監督賞を受賞した秀逸な作品でもあり、今回、二度目の来日を果たしたジル・パケ=ブレネール監督に話を聞いた。

――ヴェルディブはフランスにとって触れられたくない暗部でした。監督はこの事件をご存じでしたか? そして時のシラク大統領がスピーチでこの事実を国民に明かしました。これについては監督はどう思われますか?

「ヴェルディブのことはもちろん聞いていました。でも、聞いていたと理解していたは違います。その重みを知ったかどうかは別なのです。そういう意味では、原作の小説が果たした役割は大きかったですね。私は映画を通じて若者へ問いかけ、そして理解してもらえるように心がけました。シラク元大統領は多くの人が呼び起こしたくない記憶を呼び起こし、多くの関心を持たせました。当時、私はまだ若かったので、ユダヤのコミュニティにとって重要だっただろうとは思いましたが、その時、それほどに深い思いをわかっていませんでした。それを今、この映画を通じて理解したのです」

――監督の祖父はドイツの強制収容所で亡くなられたと聞きました。それが監督に大きな影響を与えましたか?

「はい、私の思いに大きな影響を与えました。祖父はドイツ系ユダヤ人でフランス文化を愛し、南フランスに住んでいました。そこは自由でした。しかしフランス人に告発されたのです。私はまだ生まれていませんでしたが、戦時という特異な状況下では、善悪二元説で決して語れないものがあります。世界観も全く異なるそれぞれの国民、特にドイツ人のフランス人やユダヤ人への思いは最悪の状態だったのではないかと思うのです。私はそういった部分を明るみに出したいという欲求をずっと持っていました」

――本作は過去と現在を交互に描く手法を取られていますが、これは監督の意図でしょうか?

「そうです。そして原作小説もその形ですね。小説のメリットを生かすことを考えました。現代の視線では、今を生きている私たちがホロコーストについて考え、そして昔を知ることが重要です。過去の視線では、急いで生きている現代人に対して、過去のことは将来に何らかの影響を与えるのだ、どんな些細なことでも未来の世界に通じているんだ、ということを知らしめることが重要でした」

――最近の映画の風潮でもありますが、本作の女性もみんな強いですね。そして男は情けない

「確かにそうですね(笑)。また原作者のタチアナも強いヒロインです。私自身、なぜそうなっているのかよくわかりませんが、社会的にマッチョが嫌われているのは事実で、男性が強いという至上主義に嫌気がさしているというのがあるのかもしれません。そして観客は強い女性を求めているのです。強い意志、感性、判断力など。理由を探るのはとても難しいですが、私は監督として非常に興味があります」

――サラの人生について、監督はどう思われましたか?

「寂しい、悲しい、ですね。生き残った過酷な罪悪感、弟への悲劇、それら全てを人生で背負って生きていかねばならないのは興味深いことです。ホロコーストの生存者の多くの方が自殺したり、立ち直れなかったりしました。ジュリア(クリスティン・スコット・トーマス演じる主人公)は真理を追究し、サラの人生に意味を与えようとしました。それがこの作品にモラルを与えています。息子も知らない母の人生について、彼の心の中に残すことができたのですから」

――どのキャストも素晴らしかったですが、特に子役のメリュジーヌ(幼いサラ役)は秀逸でした。彼女について聞かせてください

「メリュジーヌは素晴らしい女優ですよ。この年代の子供がこんなに過酷な重い役を演じることで、そして周囲の人間がどのような影響を及ぼすかを考えると、トラウマにならないかとても心配しました。でもそれは危惧に終わりましたね。早熟でも子供らしい面をちゃんと持ち、現実と映画の区別はしっかりできていました。出演したもう一人の女の子、彼女もサラという名前なのですが、ふたりでいつも陽気におしゃべりを楽しんでいましたね。私たちはそれを見て和まされたりしましたよ」

ホロコーストはなぜ起こったのか? 監督の言葉にもあるように、知っているということと、理解しているということ、この2つの間には大きな差がある。本作はそのことを教えてくれる作品でもある。遠い昔の出来事と思ってはいけない。これは現代にも通じる問題なのだから。是非とも劇場で本作を鑑賞し、深く考えてもらいたい。【Movie Walker】

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