アメリカの松潤!? 『少年は残酷な弓を射る』のイケメン俳優エズラ・ミラーを直撃
英国女性文学賞の最高峰・オレンジ賞を受賞した同名小説を映画化した『少年は残酷な弓を射る』(6月30日公開)。タイトルは比喩ではなく、少年が取るおぞましい行動が、見る者を震撼させる。少年ケヴィン役を演じた新星エズラ・ミラーが来日。“アメリカの松潤”と言われる端正なマスクの彼が、かなり深掘りしたという役作りについて語ってくれた。
ヒロインは、オスカー女優ティルダ・スウィントン扮するエヴァ。妊娠した当初から何か違和感を感じていたエヴァは、息子のケヴィンが産まれてからも、思い通りにならない子育てにストレスを募らせる。やがて美しい少年に成長したケヴィンは、残酷極まりない犯行に手を染める。ミラーは「脚本を読ませてもらったのは撮影の2年前で、本当にケヴィン役をやりたいと熱望した」と語る。「その後、他の企画に関わっている時もずっとこの役のことばかり考えていたから、正式にオファーをもらった時は、嬉しくて大通りで踊り出したよ」。
かなりの難役だが、ケヴィン役のどんな点に彼は惹かれたのか? 「ケヴィンみたいな人間は本当に存在するんだ。我々はそういう人間に対して理解できないとか、非人間的、モンスターというレッテルを貼りがちだ。人間の本能として、真実から目を背けてしまうんだけど、自分がやりたいことの一つに、そういう本当の人間の姿を見つけるという作業がある。ケヴィン役を演じれば、そういうモンスター視されてしまう人間の本当の姿を探求できる機会になると思ったよ」。
では、なぜエヴァとケヴィンの親子関係が、ああいう悲劇に陥ったと考えたのか。「エヴァが母親になることに対して無関心だったことが事の始まりだと思う。今の現代社会で、少なくともアメリカでは子供を産み、母になることが、ある意味、肉体的かつ心理的犠牲を伴うものとされている気がする。働く母は仕事上、降格させられたりするし、母親自体にその心の準備ができていない人がいる。エヴァもその一人で、彼女はそのうっぷんを表現する手立てがなく、ただただ隠そうとしたのがいけなかった」。
さらにミラーは、ケヴィンの感受性が豊かだった点も悲劇を招いた一因だと分析する。「母性愛をあまり感じない母親はたくさんいると思うけど、ケヴィンの場合、普通の子よりもいろんなものがよけいに見えてしまう子供だったことが不運だった。成長するにつれ、母親の気持ちを読み取るようになっていき、母親が良き母のふりをすればするほど、大きな怒りが育っていく。そして彼は、すごく極端な奇行に出て、最終的に9人の命を奪ってしまう。でも、ケヴィンが望んだのは、母親にも自分の中にある悪意や醜悪さ、邪悪さを直視し、認めてほしいということだけだったんだ」。
ケヴィンの心の闇をきちんと紐解いて役作りをしたミラーだが、演じるうえでかなり苦労をしたという。「ダークな役を演じることは、それなりに負荷がかかるし、ものすごい闇に誘惑されたりもする。今回、ケヴィン役で1ヶ月間、そういう闇に身を置いた時、『自分は大丈夫なんだろうか?』と思った瞬間が何度かあった。ただ、僕は、この映画がすごく素晴らしい作品になると信じていたから、自分が正気を失う作品になっても良いかと覚悟を決めた。本当に一時は不安定になったけど、今はちゃんと正気を取り戻すことができたし、自分の中の闇とも触れ合えたことはとても良い経験になったよ」。
迫真の演技を見せるティルダ・スウィントンに堂々渡り合ったエズラ・ミラー。ケヴィンの人を喰ったような怪しい薄笑いの表情は、本作のむごたらしい惨劇を予感させる。本作で彼は、第64回カンヌ国際映画祭でショパールの新人賞を受賞した。まさに彼の入魂の役作りの賜だが、今後の活躍ぶりも楽しみなのは言うまでもなく、是非ともエズラ・ミラーという名を心に留めておいてほしい。【取材・文/山崎伸子】