『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』の監督が語る、格好良すぎる老武者の生き様!|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』の監督が語る、格好良すぎる老武者の生き様!

インタビュー

『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』の監督が語る、格好良すぎる老武者の生き様!

『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』(8月4日公開)という、挑発的なタイトルが目を引く本作。1921(大正10)年生まれで、現在91歳の気骨な報道写真家を追ったドキュメンタリーだが、カメラマンとしての猛者の顔だけではなく、誠実な父親、葛藤する一人の人間としての生き様までが、しっかりと焼き付けられている。監督は「ガイアの夜明け」などを手掛けた長谷川三郎。彼にインタビューし、興味深い撮影秘話を聞いた。

写真家の福島はこれまで、戦後の広島をはじめ、学生運動、成田国際空港建設を巡る三里塚闘争、自衛隊、水俣病、ウーマンリブ、祝島の原発問題など、激動の戦後を果敢に切り取ってきた。前半では、福島が原爆症に苦しむ中村杉松氏に向き合う姿勢が壮絶だ。長谷川監督は、取材相手の心に踏み込むことに葛藤しながらも、真実を追ってきた福島の姿勢に感銘を受けたという。「僕もドキュメンタリーを撮るので、取材者の方とどうつきあっていくかについて、常に悩んでいました。そこで、ピカドンや学生運動で、人が時代に抗い負けていく様にも目を背けず、カメラを向けてきた菊次郎さんの写真を見て、是非ともお話を聞いてみたいと思ったんです」。

福島は、真実を切り取るためには手段を選ばず、自衛隊へ潜入しての隠し撮りなども断行してきた。「問題自体が法を犯したものであれば、カメラマンは法を犯しても構わない」と宣言する福島の言葉に、長谷川監督は打ちのめされた。「単純に法を破るってことではなくて、撮る方がどちら側に立つか、誰のためにカメラを武器にするのかってことかなって気付いたんです。正直に言うと、法を犯してまでやれるのかって聞かれたら、僕はできないと思います。でも、そういうふうに生きてきた福島さんの精神は、受け継ぎたいと思いました」。

撮影中に起こった3.11の東日本大震災。原発事故が起きた後、「フクシマがヒロシマに重なる」と言った福島の言葉が監督は忘れられないそうだ。「あの事故はとても大きなもので、自分に一体何ができるのかってことを、誰もが考えました。それで、改めて菊次郎さんの写真を見た時、苦しみが隠されていくってのは、こういうことなんだなと実感したんです。またこういうことが起きるのかもしれないと思い、ぞっとしました」。

その時、改めて本作を撮る使命感を強く感じたという。「菊次郎さんが原発問題などにどう向き合ってきたのかを考えながら、もう一度、彼の写真を見つめ直したんです。その時、このことは僕たちの世代に投げ返さないといけないなと痛感しました。彼が追ってきた広島から始まった戦後、そして今回の原発事故の現実を、悔しさを持って受け止めていく福島さんの姿を見ながら、僕たちがそのことを引き継いでいかなければと思ったんです」。

骨太な内容の本作だが、このドキュメンタリーが秀逸なのは、人間・福島菊次郎の魅力をも浮き彫りにした点だ。福島は、男手一つで3人の子供を育て上げた父親でもある。危険と隣り合わせの仕事柄、暴漢に襲われたり、家を放火されたこともあった。自宅が燃える中、家からネガを持ち出したのが、彼の愛娘だったというエピソードにも泣ける。

「娘さんにお会いした時、菊次郎さんはこんなに素敵な娘さんを育ててきたんだって驚きました。彼はどんなに大変な撮影現場にいても、毎日家に帰って、ご飯を作っていたそうです。普通、できないですよ。でも、菊次郎さんは、家族という軸をちゃんと持ってらっしゃったからこそ、ああいう写真が撮れたんです。人の幸せの大切さがわかっているからこそ、それを踏みにじられることを許さず、カメラを武器にできたんだと思いました」。

「正直言えば、菊次郎さんがこれだけ魅力的な人じゃなければ、今回のドキュメンタリーは撮っていないです」と断言する長谷川監督。「当時、90歳近い年齢でしたが、年金も拒否して、とても誇り高く生きてらっしゃった。目も悪くなり、足腰も弱っているけど、それでも自分が何かできるんじゃないかと追求されていたんです。人間が老いの中でどうやって生きるのかってことも、裏テーマとしてありました。取材する中で、本当に起き上がれないほど、ふらふらな日もあったんです」。

冒頭、急な階段を前にした福島を、長谷川監督自らがおんぶして上っていく場面では、90歳の体力の衰えをリアルに感じさせられる。福島の体重は37kgだが、監督はその時の役割の重みをずっしりと感じたという。「あのシーンは、菊次郎さんの話を聞くカメラマン志望の若者たちのところに向かう場面で、そのお手伝いをさせて頂き、心に残っています。それともう一つ、過激な内容の映画なので、これは菊次郎さんにだけ背負わせてはいけない、僕自身も顔を出しておこう、という思いもありました」。そういう長谷川監督だからこそ、この映画が撮れたのだと、心から納得した。

“ニッポンの嘘”というタイトルは、福島が語った言葉からつけたそうだ。彼の写真は真実を真摯に映し出し、日本の歴史の裏側まで暴き出してきた。そして、長谷川監督が、福島菊次郎の勇気を、今を生きる我々に届けようとしたのがまさに本作なのだ。見る側も、しっかりとその思いを受け止めたい。【取材・文/山崎伸子】

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