高倉健、新人時代の反抗心から最新作『あなたへ』への思いまでを告白|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
高倉健、新人時代の反抗心から最新作『あなたへ』への思いまでを告白

インタビュー

高倉健、新人時代の反抗心から最新作『あなたへ』への思いまでを告白

高倉健が『単騎、千里を走る。』(06)以来、6年ぶりに出演した主演映画『あなたへ』(8月25日公開)。本作は、『鉄道員(ぽっぽや)』(99)など、数多くの名作を手がけた降旗康男監督とのタッグ作で、亡き妻の思い出をたどりながら、いろんな人々と触れ合っていくというロードムービーだ。高倉健が、これまでの役者人生や、降旗監督作品の現場の醍醐味、どんな思いで本作に臨んだのかを語ってくれた。

6年もの充電期間を置いた理由について、高倉は「自分でもまだわからない」と、6年前を振り返る。「やっぱりあの中国の、チャン・イーモウ率いる百何十人のスタッフから受けた影響は、僕の中でとても大きかったなと。それで、映画を撮ってお金をもらう生活が、とても虚しく感じたんです。だから、映画だけじゃなく、CMも何もかも一切断ったんです。こんな良い条件の話を、お前、断れるか?っていうものを、断るぞって言って断った。自分で自分を試しているところもあったんでしょうね」。

「反抗をしているんですよね、何かに」と、高倉は意外な過去の思い出について話してくれた。「映画を撮るのは自分の生業で、50何年前に俳優にならないと食っていけない状況があって。大学を卒業して、俳優の道を選んだけど、『君は向かない。何百人も生徒を見ているが、悪いこと言わないから君はやめなさい』と。決定的なことを言われたんです。それで『負けるもんか』で今日まで何とか生き残って、50何年やってこられた。今では想像もできない高いギャランティをもらったり、厚い待遇を受けたりしているのに、『単騎、千里を走る。』の後にブレーキがかかったんですよね。でも、今、その理由は答えられないよ」。

そして、6年間の沈黙を破ったのが、何度もタッグを組んできた降旗監督の『あなたへ』だった。しかも『夜叉』(85)や『あ・うん』(89)のプロデューサーの故・市古聖智が遺した原案の作品で、『夜叉』や『ホタル』(01)などで相手役を務めた田中裕子、『夜叉』以来、26年ぶりの共演となったビートたけしら、名優陣が顔をそろえている。「遊んでいた6年間に何冊かの脚本をいただいていましたが、あんまり断っていると、監督と一緒にできるチャンスがまた何年もなくなるなと思いまして。僕と監督は、今後、そんなにたくさんの映画は撮れないだろうなってことを感じたことと、日本映画界にはこういう監督さんがいらっしゃるよってことを、新しいスタッフに知ってもらわなきゃいけない、そういう役目が俺にはあるんじゃないかなと思ったんです。でも、その判断は間違っていませんでした。やってみて、やっぱりすごい人だなあと」。

高倉は、降旗監督について「優しい顔をしているけど、そんなことは決してありません(笑)。骨っぽい人ですよ」と語る。「今回の作品をやって一番感じたのは、ああ、この監督、やっぱり勉強している人だなあって思ったこと。すごいですよ。それに威張らないのが良いね。誰に対しても姿勢が同じだから。見習わなきゃいけないことばっかりですよ」。

『あなたへ』の中には、放浪したり、ずっと旅を続ける男たちがたくさん登場するが、最も共感できたのは、高倉自身が演じた刑務所の指導技官・倉島英ニ役だという。「監督に教えてもらったという思いですよ。『良いことをするためには、悪いこともするんですよ』と名言を吐いたよね。なるほどなあって。昔、あの人はあんなことを言わなかったけど、やっぱり大切な思いを伝えるってことだよね。だから、自分がもらった役なんだけど、そうだよなって共感して演じられた。そういう気分じゃないと、良いものにはならないんだよね」。

竹田城址で、田中裕子演じる妻・洋子が昔話を始めるシーンで、『夜叉』の音楽を手がけたトゥーツ・シールマンスのナンバーが流れる演出も憎い。あれは、降旗監督が『夜叉』の修治(高倉健)と螢(田中裕子)の役のイメージを本作に持ち込んだものかもしれない。「それは今、初めて聞いたよ」と驚く高倉。「監督はそういうことを言わないからすごい。トゥーツ・シールマンス、やっぱり良かったよ。でも、一切言わない。だから良いんじゃないの? 監督が知らせないまま死んじゃったら、その思いは通じないんじゃないかって思うけど、あの人の中では通じなくても良いんだよ、と思っているんでしょうね」。

大切な人の思いを届けるという物語の本作だが、高倉は「監督が映画のあちらこちらに、思いを散りばめてるんじゃないの?でも、言わないんですよね、『ふふふ』だけで」と笑う。「言わないとわからない奴には、わかってもらわなくても良いってことなんじゃないの?そんなこと、いちいちわかるように説明していたら、映画なんか撮ってられない。でも大滝(秀治)さんはわかってらしたんだよ。だから、良い俳優さんはわかるんですよ。『これは監督、こうなんですね』って、その前日に念を押したもんね」。

高倉は、大滝秀治の演技で涙を流したそうだ。「参ったよな。大滝さんがぱっと振り返って、『久しぶりに美しい海を見た』という芝居を間近で見て、あの芝居の相手でいられただけで、この映画に出て良かった、と思ったくらい、僕はドキッとしたよ。あの大滝さんのセリフの中に、監督の思いも、脚本家の思いも、みんな入ってるんですよね。ここは天草の乱の時代からいじめられてきた大変なところで、決して美しい海じゃないとか、何もかもが入ってるんだよね。大滝さんもさらっと言ってらっしゃるから、わからない人にはわかりませんよ。でも、監督の演出はそういうのばっかりだよ」。

「察する文化って良いよね」とも言う高倉。「戦後、はっきりものを言うのが良いって言う時代があったんだよね。『良いことは良い』、そう言うのを『格好良いなあ』っていう時代があったんだけど、今はちょっと違ってきてる。そんなことない、上品ってこういうことだったんじゃないの?っていう時代が来てるんじゃないのかな。同じ時代に仕事ができて本当に良かったなと思わせる人ですね」。

日本映画界の至宝である高倉健がほれ込む降旗康男監督。ふたりの名タッグはもちろん、田中裕子ら名優陣が適材適所で奏でるアンサンブル演技がとても心地良い。これぞ大人が心から酔いしれることができる乙な日本映画だ。【Movie Walker】

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