田畑智子、『ふがいない僕は空を見た』で「大胆な性描写も人生の1ページだと思った」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
田畑智子、『ふがいない僕は空を見た』で「大胆な性描写も人生の1ページだと思った」

インタビュー

田畑智子、『ふがいない僕は空を見た』で「大胆な性描写も人生の1ページだと思った」

12歳の時に相米慎二監督の『お引越し』(92)でスクリーンデビュー、芸暦20年を誇る実力派女優・田畑智子。『ふがいない僕は空を見た』(11月17日公開)では、永山絢斗とダブル主演を堂々と務め、大胆な性表現にもチャレンジしている。彼女にインタビューすると、「性描写もその人の人生や生活の1ページだと思ったんです」と柔らかな笑顔で語ってくれた。

原作は第24回山本周五郎賞を受賞した窪美澄の同名小説。セックスを赤裸々に描くだけではなく、“生と性”に真正面から向き合ったストーリーで、大きな話題と共感を呼んだ。田畑が演じるのは、アニメのキャラクターのコスプレをして男子高校生・卓巳(永山絢斗)との情事に耽る主婦・里美だ。原作を読んだ印象をどう感じたのだろう。「正直、複雑ではありましたね。でも同時に、里美という人にすごい興味が沸いて、彼女のことをもっと知りたくなってしまって。新しい挑戦でもありますし、私の体を貸して、里美のことをもっとみんなに知ってほしいという思いもありました」。

姑からは不妊治療や体外受精を強要されている里美。姑の言いなりの夫との関係には空しさを感じざるを得ない。里美にとって、辛い現実から逃避する手段が、コスプレであり、男子高校生との不倫だ。里美への思いをこう語ってくれた。「現実から逃れたい願望とか、ここから抜け出したいという気持ちに陥ったことは、私もあるので。形も環境も違うけれど、その痛みや感情だったら私にも理解できると思いました。その時、これは活字だけではもったいないって思って。目から見えるもの、耳から聞こえるもの、表情や体温など、生身の人間が演じることや、現場で生まれるものがたくさんあるんじゃないかと思ったんです」。

その体温が最も感じられたのが、リビングでの卓巳とのセックスシーンだという。逃避を重ねていた里美が、現実の愛を実感する重要なシーンとなった。「(タナダユキ)監督とは、あのシーンは互いを求め合うシーンだと話し合って。今まではコスプレをしていたものが、その時は全部脱いで行為をするんですね。肌と肌が合わさった時に、裸って、人ってこんなにも温かいんだって思ったんです。それはやってみなければわからなかったことですね。あの瞬間、ふたりは幸せだったけど、切なくもあり、悲しくもあって。そういう行為をしているのに痛々しい。ふたりが幸せな感情を出せば出すほど、その痛みが伝わるんじゃないかと思いました」。

大胆な性描写にも「毎回ワクワクしていた」と続ける。「ここまでの描写はやったことがないし、初めての挑戦。デリケートなシーンなので、そりゃあ照れるものなんですよ(笑)!でも、どちらかが照れると、それは見ている人にも伝わるので、照れちゃ終わり。今までの私だったら、キスシーン一つあるだけでもすごいドキドキしていたんですが、この作品では性を表すシーンや行為が綺麗で尊いものだという気がしたんです。だから、何も恥ずかしいことじゃないじゃん!って思った。それを恥ずかしいと感じるのは、見られているからですよね(笑)。でも、それが私の仕事。誰かが撮ってくれないと、誰も見てくれないですから。すごく集中していましたよ」。

女優魂がひしひしと伝わってくるが、里美から受けた刺激も多かったようで、「里美役には役者としてではなく、自分自身が経験したことのないことが詰まっていた」と述懐する。「結婚も、出産もしたことがないし、まだ夫も姑もいないですから。里美の人生を生きてみて、勉強させてもらった気がすごくしているんです。自分の置かれている状況や環境、悩みって意外とちっぽけなんだなって思って」。

不甲斐ない人間たちが、悩み、迷い、苦しみながら生きる様を映し出す本作。それでも“性”の先には“生”があり、生きていることの愛おしさに胸が熱くなる。「生きているだけで奇跡だって思わせてくれる作品になったと思います。実際に私が生まれてくる時も、大変だったらくて!私は8ヶ月の時に未熟児で生まれたんです。救急車で運ばれて、その中で一度、心臓が止まったらしいんですよ。おばあちゃんが『何とか助けてください!』って、大きな病院に連れて行ってもらって、それでまた心臓が動き出したって。その話を聞いた時に、私は『生きろ!』って言われているんだなって感じたんです。8ヶ月でも生きようとしたんですから」。

年齢も30代を迎えて「自分を見つめ直す作業ができるようになった」と語る。「あまり今までは、自分ってどんな人間なんだろうって考えてこなかったんですよね。自分を知ろうとすることってすごい大切なこと。すると、自然と人にも興味が沸く。それは役柄も一緒で。今の自分の状況と役柄を照らし合わせて、興味を持ちながら、色々な見方をしながら、役柄を作り上げていける。これって自分のなかでは、すごく新しい感覚なんですよ。今の自分にどれだけのものができるかというチャレンジでもあったし、今という時期に里美に出会えて本当に良かったと思っています」。ふわりとした笑顔のなかに、命の物語を演じきった確かな自信が垣間見られた。生きる力を描いた本作で、是非とも田畑智子の魅力に触れてほしい。【取材・文/成田おり枝】

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