『カラカラ』監督が贈る大人たちへのメッセージ「60歳を過ぎると、人生面白くてしょうがない」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『カラカラ』監督が贈る大人たちへのメッセージ「60歳を過ぎると、人生面白くてしょうがない」

インタビュー

『カラカラ』監督が贈る大人たちへのメッセージ「60歳を過ぎると、人生面白くてしょうがない」

人生の折り返し地点に差しかかった時、あなたは何を思うだろうか。映画『カラカラ』(1月19日全国公開、沖縄先行公開中)は、不安や孤独を抱えた迷える男女が、新たな一歩を踏み出す姿を描く大人のロードムービーだ。現在63歳、沖縄在住のクロード・ガニオン監督に話を聞くと、作り出した映画そのもののようなチャーミングな笑顔で、大らかな人生観を明かしてくれた。

本作の主人公は、文学教授の職を引退した初老の男性ピエール。彼は、半生における失敗に悩み、生きる意味を見つけようと、カナダから沖縄へとやって来る。カナダ人俳優のガブリエル・アルカンが、繊細な大人の機微を見事に表現しているが、この主人公はどのように誕生したのだろう。「僕は日本人じゃないし、ましてやウチナーンチュ(沖縄人)じゃないからね。日本人やウチナーンチュの映画は撮れないし、僕は自分の映画を撮りたいんだ。だから、外国人が沖縄にやって来る、という設定にしたんだよ」と、流暢な日本語で語り出した。

沖縄にやって来たカナダ人、友人を亡くした経験を持つなど、主人公ピエールと監督には重なる点が多いようにも思うが、そこに自身の反映はあったのだろうか。「ピエールには、僕がインスパイアされた物事を投影しているとは思う。けれど、僕とピエールのキャラクターは全く違うね。むしろガブリエルから、この映画は始まったと言えるんだ。僕はガブリエルが大好きで、彼と一緒に映画を撮りたかった。僕は彼とは全く違うから、とっても彼に興味があったしね。彼はインテリで、考えすぎる人(笑)。一生懸命、何かを見つけたい、生きる方法を知りたいって考え込む人で。芝居に関しても、もともと劇場の人だから、なぜこの言葉を使うのかとか、ここはどういう意味だろう、とかね」。

そう語るように、冒頭でガブリエル演じるピエールは「私は何をしたいのか?」「ここに来た目的は何?」と深く自分に問い続けている。「もちろん、色々と探そうとした方が良いんだよ。でも、やりすぎは良くないね。何事もほどほどが良いんだ。今の社会のなかでは、みんな何でもやりすぎてしまう。仕事、仕事、我慢、我慢。男だからこうしなきゃ、女だからこうしなきゃってね。でも、エネルギーというのは、そんなに続かないものだよ。人間は人間だもの。リラックスすることが大事なんだ」。

夫の暴力から逃げて来た主婦・純子との出会いにより、ピエールの旅は予想外のものとなる。純子役を演じるのは工藤夕貴だ。のびやかな演技で見る者をぐいぐいと惹き付ける。監督は「僕は夕貴の仕事の取り組み方が大好きなんだ!」と賛辞を惜しまない。「純子は逃げてきた女性。怖くて、怖くて、逃げるほど怖い。だから時々、不自然なことをやっちゃうんだ。逃げるような状況だったら、普通には物事を考えられなくなってしまう。これは当然のこと。夕貴は、ちゃんと最初から純子の気持ちがわかっていた。びっくりしたよ。真面目で勉強家で、100%を追いかけないと気が済まない女性だ」。

ピエールの心をときほぐしていくのが、純子との出会い。そして、沖縄の代表的な織物、芭蕉布との出会いだ。劇中に登場する人間国宝の織り職人・平良敏子さんへの思いをこう語ってくれた。「みんな社会のなかでは、考えすぎたり、急ぐことに必死で、止まることができない。だけど、自分の手を使う職人というのは、心を静かにして、止まることができるんだよ。そして、敏子さんの工房でもっと大事なことは、85歳の女性たちが給料をもらえる仕事をしているということ。年を取った人たちにも、ちゃんと居場所があるんだ。65歳で定年になったら、『明日からどうしよう』とか『人生に意味がない』とか思ったりしてしまうことがあるでしょう?社会のなかで、邪魔者になってしまったように。でもね、『仕事がなくなってどうしよう?』と思っても、何か別のものがいつも残っているものなんだよ」。

「物事を始めるのに、遅いことなんてないからね。何かがなくなったら、また何かを見つければ良いでしょう?」と、優しく微笑むクロード・ガニオン監督。“空っぽの心を満たすこと”が映画のテーマとなるが、今の監督にとって、心を満たす瞬間とは?「僕はいつだって楽しいんだ(笑)。僕の人生は遊ぶこと、喜ぶことが大事。時々、山に登って、迷っているうちに日が暮れて、夜になっちゃうことがあるんだけれど、そんな時も全く心配しないよ。まあ、下に行けばどこかに着くでしょうって(笑)。僕は、次の映画が撮れるかどうかとか、明日はどこへ行くかとか、今は考えたくないんだ。今が大事だし、何かを決めるのは僕じゃない。人生の方が決めるんだ。風が吹いたら、僕も風の吹く方に行くよ。船みたいにね。人生、同じ時間を過ごすなら、楽しんだ方が良いでしょう?」。

本作は第36回モントリオール世界映画祭で、「世界に開かれた視点賞」と「観客賞」をW受賞。年齢を重ねる喜びを伝える映画は、国境を越えて、世界中の大人の心に寄り添うはずだ。「40歳くらいから、どんどん人生は面白くなるよ。60歳になったら、もう面白くてしょうがないよ」と監督。是非、優しい大人の物語に浸ってほしい。【取材・文/成田おり枝】

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