『めめめのくらげ』で監督デビューの村上隆「映画は魔物だと実感」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『めめめのくらげ』で監督デビューの村上隆「映画は魔物だと実感」

インタビュー

『めめめのくらげ』で監督デビューの村上隆「映画は魔物だと実感」

世界的アーティストの村上隆が、実写+CGによるSFファンタジー『めめめのくらげ』(公開中)で映画監督デビューを果たした。本作はCGだけで1000カット超という鳴り物入りの大作となり、村上は公開間近までこだわり抜き、ようやく作品を完成させた。ご存知、現代美術家として第一線をひた走る、世界の村上が、今、なぜ長編映画を手がけたのか?村上にインタビューし、興味深い製作秘話を聞いた。

本作は、少年と、不思議な生き物“ふれんど”との友情の絆を描く感動作。まずは、長編映画を監督したきっかけから聞いていく。「短編映画をかれこれ10年以上作ってきて、家のアーティストの短編実写映画をプロデュースした頃から、長編をちゃんとやりたいと思うようになってきました。でも、脚本の部分で、ストーリーをどう紡ぎ上げるのかというテクニックがわからなくて。今回は西村(喜廣)さんたちに出会い、ようやく形にすることができました」。

西村喜廣は特殊メイクアップアーティストで、『東京残酷警察』(08)などの映画監督でもあり、本作では監督補として参加している。別の仕事で彼と出会った時、いきなり「映画、撮らないんですか?」と切り出されたという。「打ち上げの後、また『村上さん、映画撮りましょうよ』と、ピュアな目で言われてね。ちょうど、その時動いていた長編監督作の話をしたら、『映画1作目は、自分で100%責任が持てる作品であるべきですよ』という話になって」。

その時、西村から好きな映画を尋ねられ、村上が咄嗟に口にしたのは『イレイザーヘッド』(77)だった。「西村さんはこう言ったんです。『僕も好きです。あれはデヴィッド・リンチが何年もかけて作ったデビュー作で、映画としてどうこうではなく、強烈なインパクトがあり、みんなの記憶には残っています。そういうのが監督デビュー作ですよ。コマーシャルにまみれ、神輿に乗ってやるのとは違います』と。でも、そうは言っても、話は進んでいるし、と思いながら彼と別れたんです」。

その後、別のプロジェクトは上手く進まず、東日本大震災が起こって頓挫する。そこで再度、西村から、映画監督をしないかと働きかけが入ったそうだ。「西村さんが『映画を撮るのに、今はめちゃくちゃ良い時期です。震災でどんどん映画の企画が潰れ、今なら良いスタッフがそろえられますから』と言われて。震災で気持ちはダウンしていたけど、それで元気になって、打ち合わせをしていきました」。

すなわち、『めめめのくらげ』を撮った理由としては、「タイミングが良かったとしか言えない」と言葉をかみしめる村上。「これまでは、いくらやろうとしてもできなかったし、苦労して3年がかりでやっと製作に漕ぎ付けた企画もぽしゃってしまった」と語る村上は、『おおかみこどもの雨と雪』(12)の細田守監督の言葉を例に挙げる。「細田さんと短編(ルイ・ヴィトンの『SUPERFLAT MONOGRAM』)を作った時、細田さんから『映画は魔物です。映画の神様がいて、魅入られれば作れるけど、見放される瞬間は何の前ぶれもなくやってくる』と言われて。確かにそのとおりでした」。

ようやく本作が始動してからも、いろんな苦労が続いた。「編集段階でいろんな人に見てもらったのですが、その都度、いろいろと問題点を指摘され続けて落ち込みました。そんな時、三池崇史監督の会社ガンモの坂美佐子さんというプロデューサーに見せたら、突然『面白い!』と言われて。『村上さんの全部が出ていて面白い。絶対良い作品になる』と言ってくれて、GAGAさんに橋渡しをしてくれたんです。日本公開が決まってからは、日本のオーディエンスに向けたメッセージを入れようとギアを変えて、日本仕様で演出していきました」。

世界を股にかける村上だが、日本については「僕は日本でヒットしたことがないんです。日本はスーパーアウェイだから」と激白。「日本でノーベル賞を獲った山中伸弥さんと同年にタイム誌の100人(The 2008 TIME 100:世界で最も影響力のある100人)に選ばれたんですが、僕なんてずっと日本に嫌われています。今日もTwitterで『フッテージを見たら、やっぱりつまらなさそう(笑)』ってあって。正直、がっくりします」と言いながら、笑い飛ばす。

とはいえ、本作は日本でもたくさんの観客に見てほしいと話す。「僕の青春時代、宮崎駿さんは僕たちのヒーローだった。あと『宇宙戦艦ヤマト』や『ガンダム』など、1970年代後半の日本のアニメ黎明期のエッセンスや、1960年代後半の日本の特撮全盛期のエッセンスをミックスして作った映画なので、僕らの世代のオタクの人たちには恥ずかしながらではありつつも、真価を問いたいです。また、今の子供たちに見てもらって、自分たちは今、立ち向かわなければいけないということを実感してもらいたい。この世には不可解なものがあって、大人はそれを解決してくれないから、自分たちで解決してねと。そんなメッセージを込めました」。【取材・文/山崎伸子】

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