ウォン・カーウァイ監督、『グランド・マスター』はトニー・レオンへ課した過酷なテスト|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
ウォン・カーウァイ監督、『グランド・マスター』はトニー・レオンへ課した過酷なテスト

インタビュー

ウォン・カーウァイ監督、『グランド・マスター』はトニー・レオンへ課した過酷なテスト

『恋する惑星』(94)、『花様年華』(00)、『2046』(04)など、スタイリッシュかつエモーショナルな作品で知られるウォン・カーウァイ監督。彼が『欲望の翼』(90)以来、何作も組んできた盟友とも言えるトニー・レオンを主演に迎えた『グランド・マスター』が5月31日(金)より公開となる。ウォン・カーウァイ監督がトニーにオファーをしたのは、ブルース・リーの師として知られるイップ・マン役だ。何とトニーは、47歳にして初めてカンフーにトライした。来日した監督にインタビューし、トニーとの長年にわたる友情や、過酷を極めた撮影秘話について聞いた。

イップ・マンら中国武術の武闘家たちの壮絶な戦いと、彼らを取り巻く人間ドラマが繰り広げられる本作。ウォン・カーウァイ監督は、構想から17年をかけ、初のカンフー映画を撮った。「なぜ、こんなに時間がかかったかというと、今回は(武術指導の)ユエン・ウーピンに、いろんな門派のグランド・マスター(宗師)と会って話を聞き、それぞれの精神を受け継ぐリアルな動きを作ってくれとお願いしたからだ。香港のカンフー映画は、ブルース・リー、ジェット・リー、ジャッキー・チェンたちの映画に代表されるけど、それらはだんだん現実のものから離れてきた。もちろん、映画の表現として派手に見せなければいけないのはわかっている。でも、本作ではブルース・リーの映画に近い本物の動きを目指したよ」。

トニーをイップ・マン役にキャスティングした理由は2つある。1つはイップマンの普通の武術家とは違う育ちの良さにあった。「普通の武術家は、武術の家系に生まれ、子供の頃から訓練を重ね、強くなっていく。でも、イップ・マンは代々、大金持ちの家系の出身だ。そういう人物を、普通のアクションスターが演じてしまったら、たとえアクションはできても、ボンボンだった雰囲気は醸し出せない。そこで、一番合うと思ったのがトニー・レオンだった」。

もう1つの理由は、20年以上の付き合いとなるトニーとの信頼関係だ。「彼にはこれまでいろんな役を演じてもらったので、今回はある意味、彼に“テスト”を課して、ちょっと苦労をしてもらおうかと思ったんだ。だから、彼には47歳からカンフーの訓練をしてもらった。しかも、単に武術だけではなく、グランド・マスターの精神も学ぶ修行をね。彼にとってはある意味、挑戦だったと思う」。

本作は、構想期間を含め17年、準備期間7年、撮影だけでも3年を費やしたというから驚きだ。「映画はぱっと思いついて、ぱっと撮るのではなく、アイデアを練り上げたところで初めて撮るものだと僕は思っている。次回作も、今、色々と練っているけど、全く違うイメージの作品になると思う。でも、題材は秘密だよ。なぜなら、本作でも『イップ・マンを題材にして撮る』と言った後、他の監督の手によって7、8本、イップ・マンの映画が撮られたんだ。僕は、映画を撮るのがすごく遅くて、他の人がすごく速いから、あまり言いたくないんだよ(苦笑)」。

それにしても長い間、作品を作るモチベーションを保つだけでも大変なことではないだろうか?カーウァイ監督は「そのとおり」とうなずく。「今回は、極寒の地や猛暑の中で撮影をしなければいけなかったし、トニーが撮影初日に腕を骨折したりもした。映画作りって、撮るのを諦めようかと思うことがいっぱい出てくるからね。モチベーションを保つことよりも、諦めるか、諦めないかということを選択する方が、自分にとっての最大の試練だね。本作も本当に難しかったけど、どうしても撮りたいという気持ちが勝ったよ」。

本作を撮って、特に精神面が鍛えられたという監督。「ずっと修練を重ねているような感じだった。トニー・レオンやチャン・ツィイー、チャン・チェンにしても、ある意味、人生が変わるくらい大変な撮影だったと思う。彼らがこの映画のために、2、3年も武術の練習をして自分についてきてくれたことに本当に感謝している。また、撮影期間の3年間で200人を使ったけど、そのなかには初めて映画の現場に参加した人やベテランの人もいたよ。みんな撮影終盤にかかると、ちょっと離れがたい感情が生まれていたね。まさに、人生が変わるような撮影だった」。

巷では完璧主義者と言われるウォン・カーウァイ監督。『グランド・マスター』は、カンフー映画という新しいジャンルにトライした作品だが、これまでの撮影テクニックを駆使し、またトニーたちとの深い絆や信頼関係がなければ成し得なかった集大成的な作品となった。映画を見れば、隅々までこだわり抜いたウォン・カーウァイ監督の美学にうなること間違いなしの力作である。【取材・文/山崎伸子】

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