オスカー監督コーエン兄弟が、自身最後(!?)のフィルム作品『Inside Llewyn Davis』を語る|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
オスカー監督コーエン兄弟が、自身最後(!?)のフィルム作品『Inside Llewyn Davis』を語る

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オスカー監督コーエン兄弟が、自身最後(!?)のフィルム作品『Inside Llewyn Davis』を語る

現在開催中の第51回ニューヨーク映画祭(現地時間9月27日から10月13日まで)に、最新作『Inside Llewyn Davis』(全米12月20日公開)を引っさげ、オスカー監督のジョエル&イーサン・コーエン兄弟、主演のオスカー・アイザック、そしてコーエン兄弟とは5度目のタッグとなるジョン・グッドマンが登壇した。

『ファーゴ』(96)でアカデミー賞脚本賞、『ノーカントリー』(07)で同賞作品賞、脚色賞、監督賞を受賞した実力派のコーエン兄弟は、彼らの住むニューヨークで特に人気がある監督。その上、第66回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールに次ぐ賞である審査員特別賞を受賞した待望の最新作とあって、早くもメディアの間で大いに話題に。試写会場の前には早くから長蛇の列ができ、希望者が220席の劇場に入れない事態が起きるほどの盛況ぶりだった。

同作は、1961年のニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジが舞台。家もなく仕事も見つからず、人に当たり散らしているフォークミュージシャンで、ボブ・ディランの出現によって過渡期を迎えた同時代をサバイバルするためにもがきながら人生を歩んでいくルウェイン・デイヴィスの1週間の放浪の旅を描いた作品だ。実際にミュージシャンでもある俳優オスカー・アイザックが、悲哀と内省を秘めたルウェインを見事に演じ、ジャスティン・ティンバーレイク、キャリー・マリガン、ギャレット・ヘドランドらが脇を固めている。

同時代の音楽については、多くの文献からたくさんのアイデアを得たというコーエン兄弟。またディランの憧れの存在だった白人ブルースの先駆者ミュージシャン、デイヴ・バン・ロンクの回顧録にインスパイアされ、『オー・ブラザー!』(00)に続いて4度目のタッグとなるT=ボーン・ホーネットが音楽監修を務めた同作を製作することになった過程について、次のように語ってくれた。

「この時代の音楽にはもともと興味があったけど、いつもみたいに僕たちふたりで次の作品について、ああだこうだと話していて、結局こんな作品になった(笑)。だから、どうやってこの映画を作ることになったのか、あんまり覚えてないな。この時代のニューヨークの音楽シーンとか、どんなキャラクターにしたいかとか、とにかくとても曖昧な会話から始まって、製作過程で確固なものが出来上がっていた。映画で使いたいというこだわりの音楽もあって、脚本を書きながらT=ボーンにそういう話したら、彼がいろいろ提案してくれたんだ」とイーサン。

「それまでシンガー・ソングライターと言われていた人たちは、もともとあった伝統的な音楽をカバーしていただけであって、ある種のリバイバルだった。ボブ・ディランこそが真のシンガー・ソングライターであり、彼の出現によって音楽シーンが全く変わってしまった。彼はまさに時代のカタルシスだ。でも、彼のことは誰でも知っている。私たちは、ボブが現れる前の音楽を描きたかった。わざわざ成功者の映画を作る必要はないよね」とジョエル。いかにも、コーエン兄弟らしい答えだ。

『ファーゴ』(96)でフランシス・マクドーマントがアカデミー賞助演女優賞、『ノーカントリー』(07)のハビエル・バルデムが同賞助演男優賞を受賞するなど、役者をオスカー俳優にすることで有名なコーエン兄弟作の主役に抜擢されたオスカーは、「ルウェインは、今まで受けつがれていた音楽に忠実であろうと古い曲を演奏する。かつては、伝統的なフォークソングをカバーして評価を得ていたのに、時代の流れで新しいものも求められるようになったら、一体本当の自分はどこに向かったらいいのか。ちょうどふたつの相反する事態が同時並行に起きてしまった時代で、もがいていていたんだ」とルウェインを分析した。

今作も含め、コーエン兄弟の作品はどこかノスタルジックで、自身の出身地や在住地など、ある共通した土地柄やバックグラウンドが見受けられるという指摘については、「やっぱり作品は、自分が聞いた音楽とか、自分の慣れ親しんだローカルなものになるよ。一般的な場所とかストーリーを想像して脚本を書くことは、僕たちにはとても難しいことなんだ」とイーサン監督。

また、1960年代を描いたこの映画がフィルムで撮影されたことの意味を尋ねられたジョエルは、「デジタル撮影も考えたんだが、過去にも一緒に仕事をした撮影監督のブリュノ・デルボネルにはデジタル撮影の経験がなかったし、結局アナログで撮影することにしたんだ。デジタルはコンピューターに操られた箱の中の作業になるからあまり好ましくはないけれど、次の作品からはデジタルカメラでの撮影になるだろうね」と答えてくれた。

レトロなインディーズ系作品が売りのコーエン兄弟監督も、時代の波には逆らえないものなのか。アナログ(フィルム)最後の作品で、賞レースにどう絡んでくるのかに注目だ。【取材・文/NY在住JUNKO】

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