ジム・ジャームッシュ監督がヴァンパイア映画の新作で見せたこだわりとハリウッド映画への嘆きとは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
ジム・ジャームッシュ監督がヴァンパイア映画の新作で見せたこだわりとハリウッド映画への嘆きとは?

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ジム・ジャームッシュ監督がヴァンパイア映画の新作で見せたこだわりとハリウッド映画への嘆きとは?

鬼才ジム・ジャームッシュ監督が4年ぶりにメガホンを取った新作にして、第66回カンヌ国際映画祭、第38回トロント国際映画祭に出品された話題作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(日米12月公開)が第51回ニューヨーク映画祭で上映された。ジャームッシュ監督は、ティルダ・スウィントンとともに映画祭に久々に登場。作品への思いと、音楽へのこだわりを語った。

今作でも細部にわたってこだわりを見せてくれたジャームッシュ監督。恋人同士のアダムとイヴが住む場所を、デトロイトとモロッコのタンジェに選んだ理由については、「何年か前から僕のビジョンにあった場所であり、双方ともに、僕の好きな場所なんだ。最初の脚本ではデトロイトとローマを考えていたが、タンジェはキリスト教でもなくアルコールも厳禁なハシシ(大麻)の国と、ヨーロッパとはかなり違った文化の香りがしていいと思った。一方でアダムが住むデトロイトは、僕の出身地であるオハイオとは同じ中西部でも大きな違いがあって、ミステリアスで非現実的な場所であり、僕にとっては文化的に第二の故郷みたいな親近感がある。最近、市が破産宣告をしたことは本当に残念で悲しいことだけれど、音楽や産業の文化という意味で、ビジュアル的にも歴史的にも、衰退して過去のものになった感じが、まさにタンジェとは対極の世界を映しだしていると思う」

「ヴァンパイアというと、棺桶、暗いとか閉塞感をイメージがあるので、アダムの部屋やインテリアもそういうイメージにこだわった。ファッションについても、とにかくヴァンパイアは長年生きているので、いかにも何年代に流行ったみたいなファッションは避けるべきだと思ったし、あまりファッショナブルすぎたり洗練されすぎることないように、手袋からジャケットに至るまで、バラエティに富みながらも時代を感じさせないものにした」というジャームッシュ監督。レトロなアダムと対照的にイヴがiPhoneを持っているのも面白いが、特にファッションについては、お洒落なティルダからのアドバイスも大きかったようだ。

「半分は動物的であり、半分は洗練された人間という振る舞いをヴァンパイアにさせたかったので、髪の毛は人間よりワイルドなものにしたかった。ウィッグも考えたが、なんとなく不自然で、ドイツ人のヘアメイクアーティストのガードに相談してインターネットで探していたら、ティルダに、『ワイルドにしたいって言ってるのに、なんで人間のヘアスタイルばかり探しているの。動物のファーを探してみたら』って言われたんだ。それで人間の髪の毛ともファーとも違う、ラマとかサルの毛を探し始めたらガードが、『そういえば過去に、ヤギとヤクと人間の毛を組み合わせたウィッグを作ったことがある』って言い出して、ティルダの『やりましょうよ!』という一言で、実際にやってみた。そしたら、これがなかなかよかったんだ。ティルダとトムとジョンのウィッグを作って、ミアのヘアには少し人間の髪の毛を多めに混ぜたりした。とにかくワイルドにしたかったんだよ」とまじめな顔で語り、会場の笑いを誘った。

かつて地下鉄でジャームッシュ監督と話をする機会があったという記者から、「あの時監督は、『知識も大事だが、もっと直観的なものを大事にするように』とおっしゃっていましたが、この映画にもそれが生かされていますか」と質問されると、「覚えていてくれて、ここに来てくれて嬉しいよ。知識はとても価値があり興味深いもので、常に注意しているものだ。監督とか脚本家についての本をたくさん読んでいるが、ふと、彼らはそんなに知識人ではないのではないかと思ったりする。つまり、直感を信じてそれを使うことはとても大事だということだ。すべてが最初からお膳立てされて、きちっと型が決まっているヒッチコック監督の製作手法も素晴らしいけれど、僕の場合は撮影中にできるだけのものを集めて、それを全部編集室に持ち込むので、決まったものは何もなくて、最後のカットまでどんな作品になるかわからないからね。この作品も、僕は削りたくなかったけど、映画のために30分くらい削ったんだ。映画にとって何が一番いいかを映画に聞くのが一番だから」と回答。またまたジャームッシュ監督らしい独特の答えが返ってきた。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)、『コーヒー&シガレッツ』(03)などを手掛けてきたジャームッシュ監督らしく、本作でも主役のアダムをミュージシャンという設定にし、「これって何年物のギブソン(ギター)だ」といった会話をはじめ、さまざまなシーンで映画の中に溶け込んだ音楽が印象的だ。「音楽については、なんて表現していいかわからないけれど、映画のそれぞれのシーンで適切な感情を表現してくれる、とても大切なファクターだ。だから今回も色々なジャンルの音楽をたくさん使ったし、アダムもミュージシャンにして曲を作らせた。だけどいつも映画、特にアメリカのハリウッド大作を見てがっかりするのは、その辺に転がっている音楽を探してきて、たった5種類くらいの音楽を何度も何度も使いまわしている実態だ。この地球には、これしか映画に使える音楽がないのか?って思うくらいだよ。もちろん外国の映画や、アメリカ映画でも例外はあるけれど、多くの場合で、ある限られた音楽しか使っていない場合が多いのは事実だよ」と、アメリカ映画界の音楽事情をバッサリ切り捨てる一幕もあった。

同作のアダム役には、当初マイケル・ファスベンダーが候補に挙がっていたそうだが、代役となったトム・ヒドルストンは、『アベンジャーズ』(12)のロキとは打って変わって、ロン毛に色白の姿で新境地に挑み、新たな魅力が炸裂!20歳の年の差を感じさせないティルダとのコラボも最高にセクシーだ。ふたりの美しいアーティスティックなフルヌードにも乞うご期待!【取材・文/NY在住JUNKO】

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