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松たか子、山田洋次監督に「自分の役を取られるんじゃないかと思った」

インタビュー

松たか子、山田洋次監督に「自分の役を取られるんじゃないかと思った」

山田洋次の監督第82作『小さいおうち』(1月25日公開)の主演を務めた松たか子。本作は、山田監督が初めて手掛けた切ないロマンスという点でも話題となっている。松は、『隠し剣 鬼の爪』(04)以来、10年ぶりに山田組に参加したが、以前よりも増して、山田監督の作品にかける情熱をひしひしと感じたという。松たか子にインタビューし、撮影現場の裏話について聞いた。

『小さいおうち』は第143回直木賞を受賞した中島京子のベストセラー小説の映画化作品。小さいおうちに住む、とある一家で起きた恋愛事件が、1人の女中(黒木華)の目線から描かれていく。松が演じるのは、道ならぬ恋に落ちる一家の若奥様・平井時子役だ。まずは、原作や脚本を読んだ感想から聞いてみた。「こういう色っぽい話の雰囲気を、どうやって出したら良いのだろうと思いました。謎が多いから難しい役というか、自分のことをあまりしゃべっていない女の人だったので。いろいろと想像し、探りながらやっていきました」。

久しぶりの山田組の雰囲気はどうだったのか。「監督は相変わらずお元気で、むしろ前よりもパワーアップしているような情熱を感じました。原作がありますが、物語は監督のいろんな記憶と重なる部分が多かったようで、すごく思い入れがあるんだなあと感じました。すごかったですね。まるで自分の役を監督に取られるんじゃないかと思うくらい、勢いがありました。監督は、持てる知識を総動員し、想像してほしいと、出演者やスタッフに対しておっしゃっていて。実際、けっこう細かい演出がありました」。

一つ一つの動きについても、丁寧に話し合っていった。「たとえば、時子が台所へふらっといこうとして、柱につかまったまま、ビューッと回って2階へ行こうとする動きとかもそうです。監督から、やってみることを諦めずに、この時代の人たちを演じてほしいという要望があり、それは私にとって大きな課題で、難しいなと思いつつも、結局はこの言葉に支えられて撮影をしていた気がします」。

時子の想い人である板倉正治役には、『男はつらいよ』シリーズなど、長きに渡り、山田組に参加してきた吉岡秀隆が扮した。時子と板倉のキスシーンがあるが、最初は台本になかったそうだ。「ある時、山田監督から『キスをしようと思うんです』と言われました。どうやるんだろうと思っていたら、監督が『ここでこうやって、こうなんだよ』と、身振り手振りで演出してくださるんですが、その時は、監督が吉岡さんとキスしちゃうんじゃないかと思ったくらいでした」。

役者だけではなく、もちろんスタッフのただならぬ苦労も目にしてきたという。「若いスタッフもけっこういらっしゃいましたが、監督のいろんなひらめきに、大変だと言いながらもみなさん応えていくんです。スイカを切るというカットを撮る時、春先なのに昔ながらの丸いスイカが欲しいと監督がおっしゃられて。小さいのはあっても大玉がない季節なのに、スタッフはそれをなんとか探して1個持ってきたんです。最終的には、何でも揃えちゃうんですよ」。

特に、山田監督が現場でヒートアップする様子が伺える印象的なエピソードがある。「すごいなあと思ったのは、何かのシーンでどうしても揃わない小道具があった時、山田監督が地団駄を踏んでいたことです。音が聞こえてきました。それだけ夢中になって、映画のことを考えているんだなあと。とにかく、監督を頂点に、みんなで映画を作っている感じで、とても面白い現場でした。やっぱりトップの人が元気だと、私たちも『疲れた』とか、つまらない愚痴を言えないんです。監督を見ていると、『ついていこう』と思わせてくれる。それは本当に素晴らしいことだと思います」。

大御所・山田監督が、82歳にして新境地を開いた『小さいおうち』で、身を焦がすような恋に揺れ動くヒロインを凛として演じた松たか子。その立ち居振る舞いからは、気品と強さがあふれ出ている。また、本作は単なるロマンスではない。昭和と平成という時代のうねりの中で必死に生きた人々の人生が幾重にも綴られたシンフォニーのような映画なので、たっぷりと堪能してほしい。【取材・文/山崎伸子】

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