大泉洋はなぜ落語家であのヘアスタイル!?『トワイライト ささらさや』の映画と小説の設定が違う理由を監督&原作者に直撃!|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
大泉洋はなぜ落語家であのヘアスタイル!?『トワイライト ささらさや』の映画と小説の設定が違う理由を監督&原作者に直撃!

インタビュー

大泉洋はなぜ落語家であのヘアスタイル!?『トワイライト ささらさや』の映画と小説の設定が違う理由を監督&原作者に直撃!

加納朋子の同名小説を、新垣結衣や大泉洋を迎えて映画化した『トワイライト ささらさや』(11月8日公開)。5、6年の歳月をかけて脚本を手掛け、映像化したという深川栄洋監督と、原作者の加納朋子にインタビュー。完成した映画は、小説のいろんな部分がアレンジされているが、加納は映画の仕上がりにご満悦だ。2人に、映像化に至るまでの道のりや制作秘話について話を聞いた。

乳飲み子を抱える未亡人のサヤ(新垣結衣)と、成仏できず、いろんな人に憑依して妻と息子を守ろうとする夫・ユウタロウ(大泉洋)が、小さな町“ささら”で繰り広げる人間模様を描いた本作。主演の新垣結衣について加納は「あんなかわいい奥さんを残して死んじゃったら、だんなさんは、そりゃあ浮かばれないわ、という説得力がありました。キャスティング、素晴らしかったです」と太鼓判を押す。

大泉洋についても、深川監督のこだわりがあった。「最近、大泉さんが良い男を演じていることが多いんですが、それって何か違うんじゃないかと。大泉さんは、三枚目というか、良い男に憧れる男をやった時にすごく力を発揮されるような気がしていたので、今回は見てくれも三枚目路線にしました。最初は、大きなホクロをつけたり、眉毛を二重にしてみたりしたんですが、ちょっとやりすぎだとプロデューサーから言われまして(苦笑)。その結果が、あのヘアスタイルです」。

大泉演じるユウタロウのヘアは、オンザ眉毛のくるくるパーマヘアだ。加納は、現場を見学に行った際、大泉と会った時のことをこう振り返った。「大泉さんから『ごめんなさいね、こんなになっちゃって』と謝られました。原作ではイケメンと書いていたので。まあ、書いた当時は私も若かったので、そうしちゃったんでしょうね(笑)」。

何ゆえ、脚本制作に時間がかかったのかを、深川監督に聞くと「映画にするのが、難しかったというのが、いちばん率直な感想です」と答えてくれた。「いちばん悩んだのが、見えないはずのものが見えるという表現です。実に映画的な設定ですが、だからこそ難しかった。小説では現実とそうじゃないものの境目が曖昧ですが、そのほんわかした世界観を、土足で踏みにじってはいけない気がしました」と苦渋の表情を見せる。

「その後、サヤという女性が母親になる物語と、もう1本、亡くなっただんなが解消しなければいけなかった親子の問題という2本の柱を立てて、脚本化していきました。最初は笑わせて、だんだん泣かせていく物語にするという方向性が決まり、主人公をお笑い芸人にしようとして、プロデューサーと話をした時に、落語家という設定が挙がってきたんです。落語家って1人がいろんな人を演じるわけですし、ささらの物語の1つひとつが、落語の小話になるような感覚でやってみようかと想いました」。

加納は、版元である幻冬舎の編集者からそのことを聞いた。「編集者の方からまず『落語家にして大丈夫ですか?』と心配されました。それは、作家を第一に考えてくださるからだと思います。実は私も、最初はびっくりしたんですが、今のお話をお聞きして、深いなあと感心しました。確かに落語家って、長屋の女将さんや子供、おじいちゃんやおばあちゃんまで、全部、乗り移ったように話をされますからね。その時は、私は映像に関しては全くわからないので『おまかせします』と言ったんです。そしたら、今回のような脚本が上がってきて、読んだらとても面白かったです」。

深川監督は、安堵し「この懐の深さでこの映画はでき上がりました。僕は、お叱りの言葉が出てくるかなと覚悟をしていたので」と恐縮。加納は「とんでもない!」と柔和な笑顔を見せ「原作は連作短編という形で、1話1話で何か小さな事件が起きて、だんなさんが解決していくという物語。映画化しづらかったんじゃないですか?でも、エピソードをかなり上手にまとめてくださったし、原作の大事な部分がちゃんと伝わるようにできていて、作家としてはうれしかったです」と絶賛。

加納はさらに「ラストの部分は私も不意打ちをくらい、驚いて感動しました」とクライマックスのシーンについて触れる。それは、原作とは少し異なる、ユウタロウと父親との関係性を描くくだりだ。「すごく良かったです。女性監督さんだと絶対に仕上がらない作品になったと思います。作者が女性だと、女性の視点が主になってしまいますが、映像として万人の共感を得るには、あの展開の方がはるかに良かったんじゃないかと。それはやっぱり監督さんのお力だと思います。実際、試写会では、年配の男性方も泣いてらっしゃいました」。

深川監督は頭を下げ「いやいや」と言いながらも「胸に傷をもつ男たちは、みなさん、自分のことのように感じる物語なんですよ」と小説の物語の力を強調。2人の充実感あふれる表情を見ていると、とても良いコラボレーションができたのだと納得。

実際、先日に完成披露試写会では、上映後の舞台挨拶でスタンディングオベーションまで起こった『トワイライト ささらさや』。原作ものの映像化作品としては、理想型である。心揺さぶられる感涙映画となったので、是非、ハンカチ必携で、見にいってほしい。【取材・文/山崎伸子】

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