山崎貴監督、ミギーが弓に変身した意図を明かす

インタビュー

山崎貴監督、ミギーが弓に変身した意図を明かす

岩明均による伝説的コミック『寄生獣』を『永遠の0』(13)の山崎貴監督が実写映画化する。原作ファンをも興奮させた夢のタッグだ。山崎監督自身、「原作の大ファンだった」というが、圧倒的なドラマ性に加え、ミギーをはじめとするパラサイトの描写など「実写化不可能」ともいわれた原作にどのように挑んだのか。『寄生獣 完結編』(4月25日公開)を前に、プロデューサーの川村元気氏と共に振り返ってもらった。

誕生から20年。いまだ色褪せぬ魅力でファンを増やし続けているコミック「寄生獣」。山崎監督は原作の大ファンで、「若い頃からずっと、参加してみたかった作品。自分がやれることになること自体、自分の中ではすごい大きなこと。全力を傾けなければと思いました」と、並々ならぬ情熱をもって飛び込んだ。

右手に、謎の寄生生物“ミギー”を宿してしまった主人公・新一の数奇な運命を描く。20年前にハリウッドが買ったといわれていた映画化権が戻り、日本での実写映画化が実現した。「日本人が語るべき物語な気がしていたので、日本に映画化権が戻ってくると聞いたときはワクワクした」と山崎監督。

10年もの間、「権利がほしい」と講談社に通い続けていたという川村も、「一緒にやるのは山崎監督しかいない」との思いを抱え、コンペに参加したとか。

川村の山崎監督への信頼は絶大だ。「この映画は新一をめぐる物語だけれども、もうひとりの主人公はやっぱりミギーなんです。今回は、その主人公が現場にいないわけです。普通の実写映画の感覚だと、撮ったものに対してあとでCGをつけますよね。でも今回の場合、CGを中心として、そこに合わせて人が動くという考え方をしなければいけない。現場にないものを中心として映画を撮れる監督って、日本では山崎監督以外に思い当りませんでした」。

見事に監督の座を手にし、プロジェクトに取り掛かることになるが、山崎監督は「敵がかなり手ごわいので、撮る前にいろいろと研究開発をして。そうしたら、あらゆるものが『これは無理だぞ』というベクトルを指していた(笑)。今回ほど空き時間の合間にCGをやっていたことはないですね」と苦笑い。

なかでも苦労させられたのは、やはりミギーの存在だ。「ミギーの一番面白いところは、メタモルフォーゼするというところ。いろいろな形にヒュンヒュンと変われるのが面白い。でも技術的に言うと、メタモルフォーゼするというのが実は、ものすごくハードルの高いことなんです。ミギーって20種類くらいの形態があるんですが、それぞれが全部シームレスに変形できなければいけない。さらにどんな形になっても、こいつがミギーだとわからなければいけないという、本当に面倒くさくて、ややこしいキャラクターです(笑)」。

原作の魂を受け継ぎつつ、映画化する上で変えた部分もある。印象的なのが、前編のクライマックス。原作では、新一が石を投げて寄生生物にとどめを刺すシーンを、映画では弓型に変形したミギーを武器として使うシーンに変更したことだ。

山崎監督は「前編の最初の方で、ミギーが弓道の練習を見ているシーンがあり、すべての情報を大切にしているミギーなら、あの場面で弓になるというのがとてもミギーらしい気がしたんです」とその意図を解説する。

「もちろん投擲で寄生生物を倒すというのは、原作でもかっこいいシーンだし、それはそれでやってみたい気はしたんですが、ミギーって、全部の情報を常に同じ距離に置いていて、必要になった瞬間にピッてアクセスするという考え方なんじゃないかという印象がありますね」。

すると川村は「それは山崎監督そのものです」と笑う。「はたから見ていると本当にミギーっぽいんですよ。ハードディスクにアイディアをたくさんため込んでおいて、シーンに応じてピックアップしてくる。山崎監督の特徴はそこだと思っていて。実写で俳優を演出しているのに、『カット!』と言った瞬間に、横で同時にCGを描き始めるんです。すごいんですよ。頭の中はどうなっているんだろうと思って、現場で見ていました」。

続けて川村は「山崎監督はやたらとミギーにこだわっていて、ものすごくミギーに愛情と思い入れがある。だからこそ、今回の映画が成立している」と映像化不可能の壁を乗り越えられたのは、山崎監督の愛あってのものだと話す。

偉大な原作に挑み、数多くのチャレンジを試みた本作。最後に山崎監督は「僕の映画はほのぼのとした感動路線が支配していたので、『寄生獣』を監督したことで、幅は広げられたんじゃないかと思っています。なにより、自分の夢だった作品の一つなので、自分の中で本当に大きなものです」と力強く語ってくれた。【取材・文/成田おり枝】

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