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第68回カンヌ国際映画祭、いよいよ開幕!

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第68回カンヌ国際映画祭、いよいよ開幕!

やはりカンヌはこうでなくちゃ、という天気の良さ。スカンと抜けた青空の下、第68回カンヌ国際映画祭が始まった。

ハリウッド大作で景気付けという感じのしていたオープニング作品に今年は社会派の『STANDING TALL』を選び、カンヌがただのお祭りではないということを示そうとした第68回カンヌ国際映画祭。

オープニング作品の記者会見に登場した監督エマニュエル・ベルコは「なぜコンペではなくオープニングか」という質問に「それは代表の話にティエリー(・フレモー)に聞いて」とかわしたが、映画祭初日に合わせて発売されたシャルリー・エブド誌の表紙には風刺漫画化された主演のカトリーヌ・ドヌーヴが載っているなど、今年の映画祭はフランスをはじめとして、きな臭い社会に背を向ける訳にはいかない様子だ。

当のドヌーヴは「その号はまだ見ていないけれど、笑える絵になっていればいいわね」とのお答え。さすが大女優の貫禄で会場は笑いに包まれた。

『STANDING TALL』のフランス語タイトルは「頭を上げて」といったような意味。社会の底辺で暴力でしか自分を表現できない少年を更生させようとする少年裁判所判事やケースワーカーたちの奮闘と、少年の変化を描く。

と書いてしまうと、なんかベタッとしたメロドラマ風の社会派映画に聞こえるけれど、これがなかなか。父親はいなくなり、母親はジャンキーで、6歳の主人公マロニーは母親に捨てられる。

それから何回も事件を起こしては裁判所の女性判事の前に連れて来られるマロニーだが反省の色もない。このままではいけないと判事が出した案は、母親から引き離し矯正施設に送ること。それでもまだ何回も失敗し、お膳立てをぶち壊していくマロニーに、観ている方が堪忍袋の緒を切らしそうになる。

だが、判事やケースワーカーや施設の教師たちはあきらめない。フランスの少年更生制度や子どもの福祉、貧困や失業に対する政策などを使い、できる限りの救いの手を差し伸べようとする人々に感心してしまう。

それもキリスト教的博愛とか許しとかを持ち出すわけではなく、これが仕事だし子どもの人生を変えることであり、ひいては社会のためにもなるという信念をもっているところが今風。だから、ドライでリアルなのか。ドキュメンタリー風に撮影されてはいるが、あくまでもフィクションとして作ろうとしたことが会見でも強調されていた。

登壇したスタッフ・キャストがみんな真剣なしかめっ面をしていたオープニング会見の後に、登場した審査員たちのリラックスしたジョーク混じりの記者会見には、ちょっとホッとした。

初めて兄弟二人の審査員長というコーエン兄弟率いる審査員団はなかなかユニーク。ムードメイカーとしてジェイク・ギレンホールとギレルモ・デル・トロ監督が笑いを誘い、アルモドバル映画の怪女優ロッシ・デ・パルマのオーバーなリアクションも“やっぱり”感があってなんとなくうれしい。

ソフィ・マルソー、シエナ・ミラーに、昨年の台風の目グザヴィエ・ドラン、マリのミュージシャン(名前が発音できない!)という全部で9人のメンバー。ジェイク曰く、「ジョエル組とイーサン組に分かれるんじゃないの(笑)、ジェンダーで分かれるってよりは」。なるほどそれもありかもしれない…。

なんでも一緒のようなコーエン兄弟審査員長と審査員団の選ぶパルムが一層楽しみになった。【シネマアナリスト/まつかわゆま】

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