長谷川博己のもがきや葛藤に麻生久美子も共感|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
長谷川博己のもがきや葛藤に麻生久美子も共感

インタビュー

長谷川博己のもがきや葛藤に麻生久美子も共感

大ヒット中の『新宿スワン』(公開中)、待機中の『リアル鬼ごっこ』(7月11日公開)の間に、園子温監督が放つ『ラブ&ピース』(6月27日公開)は、自身が「俺の魂の集大成だ」と豪語する渾身の1作だ。来たるオリンピックに浮足立つ東京を舞台にした本作で、園監督は我々に強烈なメッセージをお見舞いする!本作で主演を務めた長谷川博己と、ヒロイン役の麻生久美子にインタビューし、本作の撮影秘話を聞いた。

長谷川が演じるのは、冴えないサラリーマン・鈴木良一。彼の人生が、1匹のミドリガメとの出会いを経て、怒涛のような展開を見せていく。気がつけば良一は、まばゆいスポットライトを浴びるロックスターになっていた。麻生は、鈴木と交流する、地味な同僚の寺島裕子役を演じた。

良一役でかなり振り切った演技を見せた長谷川は、『地獄でなぜ悪い』(13)に続いて園監督作は2作目の出演となった。「今回は、園さんにあまり役について聞かないようにしていました。園さんの現場では、迷いなくやっていれば何も言われないんだと、前回感じていたので。でも、完成した映画を最初に観た時は、やりすぎた、失敗したなと思いました(苦笑)」。

それを聞いて麻生は「え?どうして?あの振り幅が良かったのに」と驚く。実際、挙動不審なくらいにおどおどしていた良一と、自信に満ち溢れたロックスターのワイルドリョウとは、かなりのギャップがある。長谷川は「そう言ってもらえるとうれしいです」と笑顔を見せる。

麻生演じる寺島裕子は、良一の気になる存在で、いわば本作のヒロインなのに、これまた良一と同じく全くイケてない。麻生は、園監督と共にダサイ女子のキャラクターを作り上げていった。「外見は髪型やメイクで何とかなる部分が大きいのですが、衣装合わせがなかなか上手くいかなかったです。古着と巣鴨のおばあちゃんが着るようなものを混ぜても、ちょっと格好良いミックスみたいに見えてしまう。最終的にはロックTにダサイものを組み合わせていくことにしました」。

完成した『ラブ&ピース』を観て、自身の出演作ながらも心が震えたという2人。麻生は本作について「園さんにしか作れない映画」だと表現。「園さんの伝えたいものとか、思いみたいなものが直球でバンと来るような映画でした。個人的に思ったのは、子どもに観せたい映画ということでした」。

長谷川は完成作について「こういう感じになるだろうと思っていたものとは全然違う作品になりました」と感心する。長谷川は、園監督作に、以前から特別の思い入れがあったようだ。「園さんの作品を初めて観た時、すごいなと思い、『紀子の食卓』(06)が商業映画になった時、僕はまだ20代でしたが、園さんに出演させてほしいとメールを送りました」と言うと、麻生も「そうなんですか!?」と目を見開く。長谷川は「園さんの映画は、内側にある過剰に持っているものを発散している感じがして、この人の作品に出たら、自分を開放できるという気がしていたんです」と当時を振り返る。

その後、何年も経て『地獄でなぜ悪い』(13)で遂に、園組に初参加した長谷川。「園組で役に入り込むと、負のオーラが出てきて、やっている最中にもう嫌だ!と思ってしまうことがあるんです。それが良い経験というか、もしかしたら良いところまで到達できたのかもしれないとも思うんです。園さんといっしょにやっていると、だんだん魔力みたいなものに取り憑かれていく。アドレナリンが出るというよりは、我を忘れるような感覚になって、とても気持ちが良いんです」。それを聞いて、麻生もうなずく。

確かに、長谷川演じる良一のヒリヒリするような焦燥感と、真逆の高揚感は、観る者を圧倒する。また、麻生も長谷川の受け手として、いつもとは違う地味系の存在感を発揮し、不器用な2人の恋に奥行きを与えている。これぞ、園組ならではの化学反応か。『ラブ&ピース』を観て、改めて園子温フィルムの凄味を味わってみてほしい。【取材・文/山崎伸子】

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