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【第53回NY映画祭】D・ボイル監督が故S・ジョブズに肉薄した最新作とは

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【第53回NY映画祭】D・ボイル監督が故S・ジョブズに肉薄した最新作とは

9月26日から開催されている第53回ニューヨーク映画祭で、アップル社の創始者で2011年10月5日に56歳という若さですい臓がんに倒れた故スティーブ・ジョブズを描いた伝記映画『Steve Jobs』が、センター・ピースとして上映された。

監督、脚本家、キャスト、原作者がニューヨーク映画祭に勢ぞろい
監督、脚本家、キャスト、原作者がニューヨーク映画祭に勢ぞろい[c]JUNKO

同作は、ベンジャミン・フランクリンなど並はずれた人物の伝記本の著者で知られるウォルター・アイザックソンが、ジョブズ本人から依頼を受け、約2年間にわたって多くの人たちからのリサーチなどに基づいて幼少期から亡くなる寸前までを記した公式伝記本「Steve Jobs」(2011年に出版された)を基に製作されている。

メガホンを取るのは『スラムドッグ$ミリオネア』(08)でオスカーを受賞したダニー・ボイル監督、脚本には、ジョブズと同様に時代の寵児と言われているFacebookのCEOマーク・ザッカーバーグを描いた伝記映画『ソーシャル・ネットワーク』(10)でオスカーを受賞したアーロン・ソーキンら、強力な製作陣が勢ぞろい。

ふざけるファスベンダーと突っ込むウィンスレットの相性はバッチリ?
ふざけるファスベンダーと突っ込むウィンスレットの相性はバッチリ?[c]JUNKO

そしてジョブズ役にマイケル・ファスべンダー、アップル社の共同設立者の一人であるスティーブ・ウォズニアック役をセス・ローゲン、マッキントッシュの元マーケティング主任のジョアンナ・ホフマン役をケイト・ウィンスレット、アップル社の元CEOであるジョン・スカリー役をジェフ・ダニエルズ、Mac OSの主要ソフトウェア設計者として知られるアンディ・ハーツフェルド役をマイケル・スタールバーグ、という豪華キャストが演じている。

原作者のフランクリン、ボイル監督、ソーキン、ファスベンダー、ローゲン、ウィンスレット、ダニエルズ、スタールバーグが勢ぞろいする期待作とあって、ハリケーンの影響で雨が降りしきる気温5度の寒空の下、記者たちは上映の4時間前から列を作り、会場は満席。上映が終わってキャストが登壇すると、会場は大きな拍手に包まれた。

『ソーシャル・ネットワーク』で「事実と違う」と関係者から非難を浴びた経験のあるアーロン・ソーキンは、これまでにないやり方で、伝記をドラマティックに描くことに成功している。

『ソーシャル・ネットワーク』でオスカーを受賞した脚本家のアーロン・ソーキン
『ソーシャル・ネットワーク』でオスカーを受賞した脚本家のアーロン・ソーキン[c]JUNKO

「以前からフランクリンの本を読んでいて、伝記映画の脚本を書く際に、自分がやりたくないことは明確だった。生まれてから死ぬまでのすばらしい瞬間を描いていく方法は、観客も見慣れているし、型にはまっていて独創性を欠いている。そんな作品には、自分も突き動かされないし得意ではない。そして私は、閉鎖的な空間や、圧縮された時間、そして何より舞台裏が好きなんだ」

「ウォルターの伝記本で描かれた彼の生涯すべてを描くのは無理だと思った。スティーブの人生の中のある種のテンションを、何らかの方法で脚色する方法はないかと考えたんだ。そこで、彼にとってとても象徴的な、1984年の『Macintosh』の発表、1988年の『NeXT Computer』の発表、1998年の『iMac』の発表という、3つのリアルタイムの出来事と時間を中心に描きたいと思った。スタジオがやらせてくれるとは思わなかったが、それを実現させてくれたんだ」と熱弁をふるった。

映画は総尺2時間だが、長さを感じさせないのは、大胆にも時代ごとの3部構成にするという手法による驚きのトリックがあるからだ。

故スティーブ・ジョブズを描いた伝記映画『Steve Jobs』のメガホンをとったダニー・ボイル監督
故スティーブ・ジョブズを描いた伝記映画『Steve Jobs』のメガホンをとったダニー・ボイル監督[c]JUNKO

ボイル監督は、「我々は、とにかく3部構成にこだわった。オペラのようにね。できる限り1部ずつが個々のものとして独自性を感じてもらえるように、1部は16ミリフィルム(明らかに画質が悪い)、2部は35ミリフィルムで、そして3部は高精細のデジタルで撮影した。ホームメイドの16ミリのパートは、ジョブズにとってもまだ初期の段階だ。現在の私たちから、より距離感がある(昔の)感覚をリアルに感じられるのはすばらしいと思ったんだ」

「そしてセットでも、それぞれのシーンができるだけ異なるようにして、違いを強調するように心掛けた。そのためには音響も3部すべてが異なるべきなので、役者もスタッフも、リハーサルや実際の撮影も1部ずつ分けて仕事をしてもらった」

「1部のチームがリハーサルをしたら、続けて1部の本番の撮影も行うという方法を取った。彼らのような役者は、1テイクでカットというやり方は好まないし、その時その時で俳優のエネルギーも変わってくるので、これはとてもいいアイデアだった。時代ごとにヘアスタイルやコスチュームなど細部にもこだわったし、ペースも、スコアや音楽も全く異なるように製作したんだよ」と、なんとも誇らしげに答えてくれた。【取材・文・NY在住/JUNKO】

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