『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督「10年間イバラの道でした」 前編|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督「10年間イバラの道でした」 前編

インタビュー

『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督「10年間イバラの道でした」 前編

映画監督・紀里谷和明。『CASSHERN』(04)、『GOEMON』(09)を撮り、3作目でメガホンをとったハリウッド進出作『ラスト・ナイツ』(11月14日公開)が話題を呼んでいる。テレビ朝日系「しくじり先生 俺みたいになるな!!」などのバラエティ番組で自虐的なキャラを炸裂させたり、過去2作品をいじられたりして、「紀里谷和明さんて面白いかも」と親しみやすさもアップした。彼に何が起こったのか?紀里谷監督にインタビューしたら「ここ10年間はイバラの道でした」と赤裸々な告白をしてくれた。

『ラスト・ナイツ』は、クライブ・オーウェン、モーガン・フリーマン、アン・ソンギ、伊原剛志と、インターナショナルなビッグスターを迎えた超大作だ。「忠臣蔵」をベースにした物語と聞くと、キアヌ・リーブス主演映画『47RONIN』(13)が浮かぶが、作風やアプローチ方法は全く違う。また、『CASSHERN』や『GOEMON』のようなCGをふんだんに投入した“ドヤ映画”を想像していたら、こちらも良い意味で想像を裏切られた。

黒基調のどっしりとした色調で描かれるのは、愛と忠義を描いた重厚な人間ドラマだ。雪の中で、主人公のライデン(クライブ・オーウェン)率いる騎士団が、難攻不落の城攻めをしていくというクライマックスは特に「忠臣蔵」を彷彿させるが、それよりもいちばんのポイントは、観終わった後の余韻だと思う。きちんと「忠臣蔵」のスピリットに着地していたところに、紀里谷監督のこだわりを見た。

それにしても、15歳で単身渡米し、海外で武者修行を積んだからか、紀里谷監督が手掛ける作品群は、出元が日本のものでも、映画はボーダレスな作品となる。

「僕自身も気づきませんでしたが、全部、パラレルワールドですね。『CASSHERN』でも『GOEMON』でも本作でも共通しているのは、この世でなぜこんなに不条理なことがまかり通るのか?という疑問符を投げかけている点です。それは現代社会においても言えることです。『ラスト・ナイツ』はそれを、もっと大衆に矛先を向け、これで良いのかと問いかけています」。

『CASSHERN』や『GOEMON』では、辛口批評もあふれていたが、紀里谷監督自身には、日本映画界を見返してやりたいというハングリー精神はないのだろうか?と聞くと「全くないです」とキッパリ言う。

「『しくじり先生』はそういう文脈になっていましたが、僕はハリウッドに憧れがあるわけでもなく、『僕、えらいでしょ!すごいでしょ!』ということでもなく、単純にいままでステップを踏んできただけなんです。自分がやりたいことを可能にするために、外へ出ていくしかなかったわけで。それがたまたまハリウッドでした」。

紀里谷監督は、『CASSHERN』があったからこそ、いまがあると言う。「『CASSHERN』があったから、ハリウッドからお呼びがかかったし、モーガン・フリーマンたちと仕事をさせてもらえたんです。でも、振り返れば、ものすごく厳しいイバラの道でした」。

実際、これまでの10年間で、何度もくじけそうになったことがあったと言う。「『ラスト・ナイツ』撮影の後半戦で、もうやめようと思いました。肉体的にもメンタル的にも辛すぎて。毎日12時間、マイナス20度のなかにいて、これだけのバジェットと、キャストの人たちへのプレッシャーを抱え、さらに自分はプロデューサーでもあるから、ファイナンスの処理もしなくてはいけなくて。何度も撮影が止まりそうになるという局面を迎えながら、極限状態のなかで撮影をしていたわけです。たとえば、モーガン・フリーマンのシーンを1つでも撮りこぼしたら、全部が崩壊しますから」。

でも、その時に、紀里谷監督を救い上げてくれたのは、そのモーガン・フリーマンだった。※後編に続く

【取材・文/山崎伸子】

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