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『ヱヴァ』興行1位に見るしたたかな宣伝戦略とは?

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『ヱヴァ』興行1位に見るしたたかな宣伝戦略とは?

6月27日に公開された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』が、全国120館と少ない館数にもかかわらず、興行成績は354,852人、約5億円を叩き出し、前週1位の『ROOKIES 卒業』を抜いて、初登場1位を獲得した。そこで、本作にまつわる巧みな宣伝戦略のポイントをいくつか挙げてみたい。

まず、ターゲットの設定が「従来のファン」だったことだ。元々人気の高い本作であるがゆえ、その多くのファンの興味をどれだけ惹くかに力が注がれた。

その取り組みのひとつが、作品の“フリーペーパー”。一般的な映画宣伝の紙媒体は“ちらし”だが、本作では制作スタジオが発信するフリペが作られた。直送感のあるプロモーションツールとしてファンとの距離を縮めつつ、公開日2ヶ月前から第1号〜3号を配布することで期待感を煽り、コレクター魂をくすぐった。しかも、第4号だけはこれまでのフリペを収納できる特製ホルダー付きで“発売”されるという、ディアゴスティーニばり(?)の販売戦略。一部のファンからは、“「エヴァ」は金がかかる”と揶揄されるのも肯ける。

そして、ターゲットが明確なので、告知の出し方が徹底していた。『ROOKIES 卒業』がテレビを中心に、コンビニやレストラン等幅広い層を狙った全方位的展開であったのに対し、『ヱヴァ』はネット中心の露出だった。作品の内容やこれまでの実績から、“ネット世代”もしくは“ネットをよく見る人”に絞り、情報をネットに集中投下したことで、少ないコストで大きな反復効果が得られた結果となった。

発信されたリリースの数は、一般のメジャー系映画に比べて、実に2〜3倍くらいの差があった。昨今はだいぶ意識が改まってきたものの依然古い体質が残る映画宣伝において、「ネットの重要性」を十分認識した宣伝展開で、WEB上には気持ちがいいくらいに告知が踊っており、それに反応するファンも多かった。

また、リリースの中身は、新キャラの登場、フリペ配布、タイアップ・キャンペーン等、情報は多岐に渡り、最後までファンを飽きさせない段階的かつ長期的な戦略が用意されていた。リリースを出し続けられる要因として、際限のない関連グッズ展開が挙げられるが、このあたりはジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」シリーズに関するキャラクターの商品化権利を手放さなかったことに代表される「キャラクター・ビジネスの強味」が発揮されていると言える。

一般の映画プロモーションでは、たとえ主演であっても(別の映画を撮影しているなどの理由で)本人の都合が付かないと、作品はなかなか表舞台に現れることがない。そのため、宣伝会社は、原作者やタレント等を引っ張り出して、少しでも作品を露出することに頭をひねる。しかし、アニメ(キャラクター)の場合は、登場人物本人が何度でもプロモーションに顔を出すことができる。今回は、キャラクターの画像が入ったドリンクボトルやコスプレイベント限定タオル等が、新作アピールに一役買った。

このように、まだまだファン心理を突いた戦略があるけれども、それに応じる熱心なファンがあってこそのヒットとなった。このヒットの中、現在テレビアニメ版が再放送中で、映画第1作目の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』が“TV版”という、またもやファン心をくすぐる再編集版として7月3日に放送される。ここでも、新たなファンの取り込みも視野に入れたしたたかな戦略が垣間見える。需要と供給のバランスが強固に結びついた“エヴァ・ワールド”。4部作の第3弾、第4弾が控えるだけに、しばらく「エヴァ」の宣伝展開から目が離せそうにない。【MovieWalker/堀田正幸】

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