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『太陽』入江悠監督&原作の前川知大が語った苦労話とは

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『太陽』入江悠監督&原作の前川知大が語った苦労話とは

読売演劇大賞他、さまざまな演劇賞を受賞した前川知大による舞台劇を、神木隆之介、門脇麦らの出演で映画化したSF映画『太陽』。本作の制作秘話を、入江悠監督と原作・脚本の前川知大が語った。

入江悠監督と原作・脚本の前川知大の対談が実現した
入江悠監督と原作・脚本の前川知大の対談が実現した

前川が主宰する劇団イキウメによって上演された同名舞台を実写映画化した本作。バイオテロにより人類の大半が死滅してしまった近未来が舞台。健康な肉体や高い知能を持つ一方、光に弱く夜に活動する新人類“ノクス”と、彼らに虐げられ貧しく暮らす旧人類“キュリオ”の関係と、そこから生まれる騒動を描く。

入江監督が『太陽』を映画化しようと思ったきっかけは?「まず戯曲を読ませていただいてから、DVDで拝見して『わぁ、面白い!』と思いまして、映画化しようと思ったのがかれこれ3年くらい前です。題材が近未来だったので、映画化が決まるまでに結構、時間が掛かりましたね」。

完成した作品を見た感想については、「原作の設定は近未来なんですけど、それって現実にないものじゃないですか。それをどう作っていくのかというのは打ち合わせを重ねましたね。それで、実際に完成作品を見たら、かなり話していたイメージにドンピシャで。そう、こういう感じ!と、イメージ通りでした。どのシーンをとっても、例えば風景だったり、衣装だったり、建物だったり、その室内だったりも全て納得できる感じで、それがすごいなと思いました」と前川。

とはいえ、その世界観を作り上げていくのは大変だったようだ。「脚本を書いているときはそんなに考えてなかったんですけど、いざ撮影場所や俳優さんを決める段になると、演劇を映像化するってこんなに大変なのかと身に染みて感じました(笑)」と入江監督は苦笑い。

「演劇って空間が抽象的だったりするじゃないですか。それをお客さんの想像力で補わせたり、考えさせたり。それがまた刺激になったりしますが、映像の場合、全て具体的にしなくてはいけないんです。じゃあ、『太陽』の世界は、どのくらいの未来度なのかとか、“キュリオ”はどのくらい貧しいのかとか、それを1つずつ細かく、具体的にしていくのはなかなか大変だと思いましたね」。

具体化するに当たり、ヒントになった世界観はあったのだろうか?「いろんなSF映画とかありますけど、基本的にアメリカで作られているSF映画はすごい物量だったり、CGだったりが使われていて、ほとんど参考にならなかったんですよね。だから本当に、前川さんの頭の中に聞きに行くというような感じで。頭脳に聞きに行くみたいな感じでした(笑)」と、入江監督は笑いながら振り返る。

しかし、一方の前川も、頭の中にははっきりと具体的な世界が見えていた訳ではないという。「いや、僕も具体的な絵はなかったんですよ(笑)。出されたものに対して、『これは違う』というのは言えて。『あの映画のああいう感じ?』というのに対して、『あれはないけど、あれはありだね』という話はよくしたと思います。その中ですり合わせていった気がしますね」。

作中で、主人公たちがススキの中を走るシーンは印象的な場面の1つとなっているが、それについては「先ほど話したように、演劇の良さって“お客さんに想像させる”というところが強いかなと思うんですけど、映像ってそれを置き換えてしまうのが良いところでもあり、お客さんの想像力を奪ってしまっているところでもあると思うんです。そんななかで、せっかく『太陽』っていう作品があって…、僕にとっては10年に1本くらいの題材だと思っているんですけど、それを下手に映画化したら演劇に負けてしまうなと思ったんですよね」と前置きしてから、「だから、なんか映画としての勝算を見出さないとと思いまして」と入江監督。

「そのとき『映画って運動だ』と思ったんです。演劇ってどうしても空間が限定されるじゃないですか。でも、映画は無限にどこへでも行けるというか。上空もどこまでも行ける。なので、ススキの向こうから走ってくるというシーンも、演劇だと何mというところで移動を表現しないといけませんが、映像の場合は運動させられるので、結構走ってもらいました。そこは、演劇とは違う切り口でできないか、と考えて演出したところですね。移動の距離感というのは、映画ならではのポイントになればいいな、と思っていました」と、走るシーンについて熱く語ってくれた。

また、入江監督自身が気に入っているシーンは「僕は原作のときからそうなんですけど、最後の橋のシーン。『太陽』というものを象徴していて、いろんなものがあそこに詰まっていると思います」とのこと。

前川は「結構あるんですが、一番はやっぱり長回しの最後の克哉(村上淳)のシーン。あと、引きで撮っているシーンで、草一(古館寛治)が拓海(水田航生)を追いかけてボコボコにしているところ(笑)」。

これについて監督は「あれは、撮影場所の斜面に栗がいっぱい落ちてて大変だったんですよ。斜面を転がるシーンですし、草一は裸足なんで、スタッフ総出で2時間くらいかけて栗を撤去しました(笑)」と解説した。

最後に、“ノクス”が進化した新人類ということにちなんで質問!「ご自身のどこかを進化させられるとしたら?」。前川は「そういうの真剣に考えちゃいますね!う~ん、肉体的なところでいくか、知性的なところでいくか。やっぱり僕は肉体的なところで考えちゃうかな。1日15分だけ空を飛べるとか。15分だけだと、結構いろんなドラマができる(笑)。それがファンタジック過ぎるなら、絶対に風邪を引かないとかが良いですね」とニッコリ。

入江監督は「他の生物の視点で物事を見たいというのはありますね。それこそ15分で良いので、自分の肉体を出て、鳥の視点で空を見たり、ねずみの視点で地下を見たりしたいですね」と、ざっくばらんに話してくれた。【取材・文/平井あゆみ】

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