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押井守&鈴木敏夫「いま“邦画”にこだわる必要はない」

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押井守&鈴木敏夫「いま“邦画”にこだわる必要はない」

押井守が構想15年、製作費20億円を投じて完成させた『ガルム・ウォーズ』(5月20日公開)。4月16日、早稲田大学大隈記念講堂での講義「映画のすべて マスターズ・オブ・シネマ」の講師として、押井と本作の日本語版プロデューサー・鈴木敏夫が教壇に立った。

過去にも映画界で活躍する面々が担当してきた本講義に、今回は“腐れ縁”という押井と鈴木が登場。30年以上の付き合いを踏まえて、押井は「本当に腐れ縁の典型。死んだらちょっとは寂しいかな…。映画のプロデューサーだから、まあ悪党ですね(笑)」とぶっきらぼうに鈴木を紹介し、仲の良さをうかがわせた。

“腐れ縁”とも呼べる押井守と鈴木敏夫が『ガルム・ウォーズ』について語り合った
“腐れ縁”とも呼べる押井守と鈴木敏夫が『ガルム・ウォーズ』について語り合った

講義で押井は『ガルム・ウォーズ』の出発点から語りだした。「『攻殻機動隊』が終わった後で、でっかい映画を作って欲しいという依頼があった。予算は60億円手配した、と。当時は『ガルム戦記』という名前で、今までにない技術開発を含めて、本気でファンタジーをやろうと思ったんです。CG、実写、アニメ、各部門の第一線で活躍してるスタッフをかき集めて、パイロット版も作った。でもいざ始めようとしたときに、突然の中止命令。本日をもって全員解雇する、と。15~16年前のことです」。

押井が構想15年、製作費20億円を投じて完成させた『ガルム・ウォーズ』
押井が構想15年、製作費20億円を投じて完成させた『ガルム・ウォーズ』[c]I.G Films

押井はことあるごとにこの企画の復活を狙い、長い時を経てついに完成を迎えた。しかし、ここでまたしても問題が浮上…。押井は「北米の公開は終わってるんですが、日本での公開が難航して。そこでProduction I.Gのプロデューサーが引っ張り出してきたのが、このおっさん(鈴木)だったんです(笑)」と、鈴木が本作に関わることになった経緯を明かした。

【写真を見る】鈴木について「映画のプロデューサーだから、まあ悪党ですね(笑)」と語る押井
【写真を見る】鈴木について「映画のプロデューサーだから、まあ悪党ですね(笑)」と語る押井

日本語版プロデューサーに任命された鈴木は「元の『ガルム・ウォーズ』はカナダ人のキャストとスタッフがほとんどで、みんな英語でしゃべってる。日本語版があってもいいんじゃないかと思って、今回担当しました」とその役割を説明。そして、虚淵玄とのコラボレーションに乗り出したことについて「『魔法少女まどか☆マギカ』や他の作品を見ていて、虚淵さんにキャッチコピーをお願いしようと思ったんです。先日、虚淵さんにお礼のメールをしたら『去年やった仕事の中で一番緊張しました』と(笑)。あれは嬉しかったですね」と語った。

「映画を作りたい人はタイへ行くべきだ」という持論を展開した鈴木
「映画を作りたい人はタイへ行くべきだ」という持論を展開した鈴木

終盤には学生から質問も受けつけた2人。内容は主に今後の日本映画界について。これに鈴木は「映画を作りたい人はタイへ行くべきだ」という持論を展開。「タイという国はすごい勢いで映画を量産していて、しかもおもしろい。僕は『チョコレート・ファイター』(08)という映画が大好きなんですけど、アジアだけで興行収入1000億円。製作費はたった50億円なのに。タイには世界の映画を変えようっていう野心がある。押井さんだって英語が全然しゃべれないのに、『ガルム・ウォーズ』をカナダで作ったんだから(笑)」。

鈴木は本作の日本語版プロデューサーとして参加している
鈴木は本作の日本語版プロデューサーとして参加している[c]I.G Films

この考え方に押井も同意し、「いま“邦画”にこだわる必要はない。企画によって作る場所、公開する場所は変えるべきだと思う。世界中どこに行っても関係ない。飛び込んでみれば、そんなに難しいものじゃないんです。問題は国境を越えても通じる物語を作っているか。実写でやると恥ずかしくなりそうなことを、大上段に振りかぶってやる。そういう人間がもっと出てきて欲しい」と答えた。

押井は「本当に腐れ縁の典型。死んだらちょっとは寂しいかな…」とも発言した
押井は「本当に腐れ縁の典型。死んだらちょっとは寂しいかな…」とも発言した

最後に映画界を目指す若者に向けて、押井は「映画を志す人は、映画は監督が作るものだと思っている。でも、それは大変な勘違い。現場に関わる人間にはいろんな職種がある。そういうことを知った上で、自分は何がしたいのか、自分が何に向いているのか。現場に入って考えた方がいい」、鈴木は「映画って1人では作れないんです。結局、仲間と一緒に作らないといけない。仲間と一緒に作る才能。それが必要なんじゃないかなと思っています」とエールを送った。【取材・文/トライワークス】

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