あっという間に折り返してしまったカンヌ映画祭。 前半のまとめをお届け!|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
あっという間に折り返してしまったカンヌ映画祭。 前半のまとめをお届け!

映画ニュース

あっという間に折り返してしまったカンヌ映画祭。 前半のまとめをお届け!

現在開催中の第69回カンヌ国際映画祭では、5月18日現在までに21本中13本の公式上映が行われ、各日報誌の星取表では10本の作品の評価がほぼ出揃ったところだ。

星取りを載せている日報は3誌ある。フランスの新聞・映画誌などの評者による「フィルム・フランセ」、各国の有力紙・映画誌の評論家による「スクリーン・インターナショナル」誌、各国のカルチャー・マガジン(例えば日本は「Cut」の佐藤久里子氏が評者を務めている。インディ系もあればセレブ系もあるのだが)の評者による「ガラ」誌、である。

この3誌の日報で共通して評価が高いのが『トニ・エデルマン』というドイツの作品。監督はマレン・アデという今年40歳の女性監督で、長編はこれが3本目。プロデューサーとしては15本の作品がある。カンヌは初めてだが、これまでの2本ではサンダンス映画祭、ベルリンの映画祭での受賞歴がある。もちろん日本での一般公開作はなく、全くノー・マークの監督であった。

筆者は残念ながら未見で最終日の上映にかけているのだが(すみません。食あたりして寝ておりました。何せまだ3日目の上映だったもので…)、少なくともなんらかの賞に絡みそうでヒヤヒヤしているところだ(苦笑)。

上映時間は2時間42分。今年のカンヌは2時間越えの作品が多いが、その中でも最長。けれど、コメディである。引退した音楽教師の父が社会的に成功したその娘を訪ねる。破天荒な父を疎ましく思っている娘は突然の訪問にとまどうのだが、案の定、父は娘の生活を引っ掻き回すのである。という話、らしい。これだけだとイヤな話だなと思ったのだが、それをちゃんとコメディとして昇華させているようだ。

「スクリーン」では4点満点中平均3.7という高評価、「フィルム・フランセ」では4点満点中平均3、「ガラ」では4点満点中平均2.8で、3.1のケン・ローチ監督『アイ、ダニエル・ブレイク』に1位を譲ってはいるものの2番を確保している。

日報の星取りを見る限り、今年は評価が平均しているし比較的高い方に寄っている。作品の粒が揃っている、ということだ。筆者も12本見た中でこれはダメだと思った作品は2本だけ。それも日報では結構高評価をつけている人もいるのである。つまり、作品としての完成度、作家性の表出の程度がどれも満足できるレベルの作品が並んでくると、評者としてはそのテーマやストーリー、演技などの“好き嫌い”“認めるか認めないか”というところで評価をすることになるのではないか。

いみじくもウディ・アレンが初日の会見で言ったように「最後は好き嫌いじゃないか」ということなのだろう。

今年の作品は今まで見たところ、傾向として社会派のテーマを持ったものが多い気がする。これも筆者の“好み”がそう見させているのかもしれないが。

ケン・ローチ監督が会見で触れたのだが、現在、世界的に不寛容な社会になっていて、例えば「貧困は自己責任によるものだ」という考え方や、移民・異人種・異宗教を排斥しようという考えに同調する傾向が生まれている、という。経済至上主義が世界を支配し、貧困層だけではなく中間層の生活すら破壊しつつあるということを、例えばブラジルの『アクエリアス』、インテリ中流階級の老女が住み慣れたマンションを売れと迫る建築業者と闘うという物語が示してくれた。

その一方で、やはり映画には希望が欲しい、という気分もある。「スクリーン」誌で『トニ・エデルマン』に次いで評価が高いのが、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』であることがその証拠ではないか。ジャームッシュ映画らしく、もの静かな主人公の何も起こらない、でもちょっとざわめく出来事を淡々と描く作品だ。その静けさ、肯定感に、浄化される感じがする。そう考えると、各作品、どうにか最後は希望が見えるよう、工夫を凝らしているようにも思える。見終わった後、どうにもしようがなく重く暗い気持ちになる作品はない。

これも時代の気分、なのか。

ともあれ、残りの上映作品は筆者たち記者にとっては8本。この“感じ”が続くのだろうか。そして賞の行方はどうなるのか。楽しみに残りの作品を見続けたい。【取材・文/まつかわゆま】

作品情報へ