「火花」の林遣都&波岡一喜「漫才シーンは怖かった!」
又吉直樹の第153回芥川賞受賞小説「火花」が、満を持して映像化。全10話のドラマとなり、動画ストリーミングサービスNetflixで配信される。総監督・廣木隆一率いる映画畑のスタッフが手掛けた本作は、情緒を生み出す画の余白やにじみ出るパッションがあふれる、実に映画的な作品となった。そこで、本作の主演を務めた林遣都と波岡一喜にインタビューした。
鳴かず飛ばずのお笑い芸人・徳永(林遣都)が、ある日知り合った先輩芸人・神谷(波岡一喜)の漫才に心を動かされる。彼らが漫才の世界で、もがきながらもふんばっていく10年が、丁寧に活写されていく。
林は「火花」への出演オファーを受け、プレッシャーと共に責任感を感じたと言う。「大作と呼ばれる作品をやりたいという思いは、常に心のなかにありました。それに、昨年あれだけ多くの人が読んだ作品を、いま日本を代表する監督たちと共にやれるなんてことは、二度とないかもしれないとも思って。だから、必ず残るものにしなければという思いで臨みました」。
波岡も「チャンスだと思いました。僕ら世代の俳優なら、『火花』に出たいと思うやつはたくさんいると思ったし、そういう意味で言えば、すごく光栄でした。でも、最初はプレッシャーの方が大きかったです」とまっすぐな目を向ける。「原作のすごさ以上に、自分が演じる役のデカさや存在感にちょっと焦りを覚えました。この尊敬されるべき神谷という存在に、果たして自分がなれるのかと。でも、始まってみたら、神谷が神である必要はなく、徳永にとって唯一無二の存在であればいいんやと思えたんです」。
林は、10代の頃に『ラブファイト』(08)で共演した波岡のことをずっと先輩俳優として慕ってきた。「当時、すごくかわいがってもらったんです。だから今回、波岡さんと師弟関係を演じると聞いて、何の不安もなかったし、ちょっと楽になったくらいです」。波岡も「はじめまして。どうぞよろしく!というところをすっ飛ばしてスターとできたのが良かったよね」と、あうんの呼吸で顔を見合わせる。
林はお笑い芸人の好井まさお(井下好井)と、波岡は村田秀亮(とろサーモン)と漫才シーンにトライした。林は練習に練習を重ねたが、とても難しかったと激白。「売れてない頃のオーディション時代から、テレビに出て売れていき、単独ライブやコンテストに出ていく。その変わっていく姿をリアルに演じたかったので、好井さんにいろいろな話を聞いて盛り込んでいきました。でもいくら練習しても、ステージでは怖くてしょうがなかったです」。
波岡も「いやあ、怖いよな」とうなずく。「僕は一度、映画で漫才をやらせてもらっているんですが、やっぱり怖かったです」。漫才シーンはこのドラマのハイライトで、廣木監督も先日の舞台挨拶では2人を絶賛していた。
波岡は「いやいや」と手を振る。「たとえば調子に乗って、盛り上げるためにM-1(グランプリ)に出ようかなんて言った日には大火傷です。それ、見たことかと。まあ実際、すごく練習はしましたけど、僕も遣都も相方役がプロという点で恵まれていたので、そっちに委ねました」。
「火花」では、ひと握りの芸人のみが成功し、あまたあふれる芸人たちが淘汰されていくという現実が浮き彫りにされていく。容赦無い漫才界だが、本人も芸人である原作者・又吉直樹視点には、優しさと真心がある。そのことについて質問すると、波岡は「それは、こっちの担当なので」と穏やかな笑みを浮かべ、林の肩にぽんと手をやる。
林は少しはにかみながら、自分の思いを吐露する。「他人事じゃないなと思いました。僕はいま25歳ですが、周りで俳優や音楽をやっていて、分岐点に立っている友だちもたくさんいますし。この年になると、夢を見ているだけじゃダメだと、真剣に考え出すんです。実際、好井さんは又吉さんと親しくて、飲んだ時によくそういう話をしてくれたそうです。何で才能があり、必死に努力もしているやつが報われずに、そうでないやつが脚光を浴びていくのかと。そういうシステムが悔しいと言っていたそうで。そういう思いが原作に詰まっているんだなと思いました。それぞれがやってきたことは決して無駄じゃないし、周りに少なからず影響を与えていたということなんだなと。そこで終わりじゃなくて、まだまだ人生は続いていくし。ちゃんと希望が描かれているのが、『火花』の魅力だと思いました」。
林遣都と波岡一喜のやりとりを見ているだけで、なんだかほっこりと温かい気分になれた。「火花」は世界190か国で、全10話一挙に同時ストリーミング配信される。林遣都と波岡一喜がつむいだ熱い師弟愛と、作家・又吉直樹が伝えたかった人生の応援歌をたっぷりと堪能してほしい。【取材・文/山崎伸子】