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広瀬すず、『怒り』で「自分の力の小ささを突きつけられた」

インタビュー

広瀬すず、『怒り』で「自分の力の小ささを突きつけられた」

『海街diary』(15)、『ちはやふる』(16)の2作に『四月は君の嘘』(公開中)と、人気コミックを映画化した話題作が続く広瀬すず。まさに“飛ぶ鳥を落とす勢い”でスターダムを駆け上がった彼女は自他ともに認める“負けず嫌い”だそうで、常に「これでいいのか」と自問自答を繰り返してきた。彼女がさらなる高みを目指し、オーディションを受けて勝ち取った役柄が、渡辺謙ら豪華俳優陣との共演作『怒り』(9月17日公開)の小宮山泉役だ。

本作は、日本アカデミー賞など国内の映画賞を多数受賞した『悪人』(10)の李相日監督が、原作者の吉田修一や同作のスタッフ陣と再びタッグを組んだ渾身の群像劇。ある夫婦の惨殺事件で疑いをかけられた3人の男を巡る犯罪サスペンスとなっている。疑わしい男3人が現れた千葉・東京・沖縄で3つの物語が同時進行し、広瀬は沖縄の無人島にこもる男・田中信吾(森山未來)と交流する女子高生役を演じた。

広瀬にインタビューし、オーディションに臨んだ動機を尋ねると「本当にこれでいいのかな?とも思える時期だったので、この作品と共演者の方々、李監督と出会うことで、何か変われるんじゃないかと思いました」と答えてくれた。共演者とは、森山未來、渡辺謙のほか、松山ケンイチ、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡といったそうそうたる実力派俳優のことだ。

「この方々のなかで私は何もできないけど、李監督の下でどうしてもやりたいと思いました。いままで演じたことのない女の子の物語だったし、シリアスな作品はいつか絶対にやりたいと思っていたので」。

沖縄パートでは、広瀬と同じくオーディションで大抜擢された新人・佐久本宝と共に、李監督からとことん鍛えられた。手応えについては「かすりもしなかったです」とキッパリ言う。

「自分の力の小ささを目の前に突きつけられました。宝くんとお互いに“0からのスタート”だと思って、リハーサルでは9時間くらい缶詰状態でしたし、現場でも監督からボロクソ言われました。覚悟はしていたのにどんどん見えてくる自分のできなさ加減に悔しすぎて、やっていくうちに悲しくなっていきました。そういう感情に出会えたのはこの作品が初めてでした」。

厳しい演出を受けるなかで、いろんな発見があったようだ。「これまでは、大人の女優さんや俳優さんの方を見ていて“上手い”ととらえていたのですが、今回の現場では“上手い” “下手”とかではなく、役として生きて何を感じて何を出せたのかということなんだなと思いました。これこそが映画の撮影という感じでしたが、すごく葛藤はしました」。

泉は中盤である壮絶な悲劇に襲われ、体も心もズタズタにされる。かなりハードなシーンだが、広瀬は「泉の役全体を見て、むしろこういうシーンがあったからこそやりたいと思いました」と述べる。「私のなかではやりがいを感じ、いちばん実感できた瞬間でした。なかなかそういうシーンは少ないですから」と言う姿が頼もしい。

「李監督からも『このシーンだけは正解がわからない』と言われました。私も直前まで全然わからなかったけど、監督から『口を押さえられた瞬間、心が引き裂かれるような感じで』と言われ、そこからぶわーっと感情が溢れてきたんです。2日間かけて撮っていたのでものすごく疲れました。その後は正直、人に触れるのが気持ち悪くて仕方なかったです」。その言葉からは役へののめり込み具合がうかがえる。

クライマックスで泉が慟哭するシーンは、まさに“怒り”というタイトルに宿るテーマを端的に訴えかけている。「その前にも思い切り怒りをぶつけたシーンがあったのですがそれはカットされました。一番感情が頂点に立ったシーンでしたが、そのシーンがあっての叫びだったのかなと。泉としてどうしようもなくなったというか、この感情はだれとも共有できないし、何かに当たったところでその辛さがなくなるわけでもないし」。

実際に、叫んでいて酸欠になりそうだったとか。「死んでもいいんじゃないかと思えるくらい自分のなかではすごく追い込まれたからこそ、泉に共感する部分がありました。自分がちょっと泉と似ていると感じたのが、そこでやり返してやる、私の思う言葉で言うと『這い上がる』と思えた点です。どうしようもないことだけど、そこで『自分が変わるしかない』と思えるのが泉の強さかなと」。

広瀬すず、18歳。李組という虎の穴での修行を経た後に見た景色はどういうものだったのか?『怒り』は彼女にとって特別な作品になったことは間違いない。【取材・文/山崎伸子】

※「宮崎あおい」の「崎」は正確には「大」の部分が「立」です
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