『君の名は。』の次は“えぐられる娯楽”『怒り』。川村元気プロデューサーを直撃|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『君の名は。』の次は“えぐられる娯楽”『怒り』。川村元気プロデューサーを直撃

インタビュー

『君の名は。』の次は“えぐられる娯楽”『怒り』。川村元気プロデューサーを直撃

結果を出せるプロデューサー、川村元気。彼が企画した近作では、新海誠監督作『君の名は。』(公開中)が超ド級のメガヒットを記録中だ。そんな川村が、日本アカデミー賞など国内の映画賞を多数受賞した『悪人』(15)の李相日監督や原作者の吉田修一、同作のスタッフ陣と再びタッグを組んだ群像劇『怒り』が9月17日(土)より公開される。川村プロデューサーにインタビューし、本作への並々ならぬ思いについて聞いた。

『電車男』(05)を皮切りに、『告白』(10)や『悪人』(10)、『モテキ』(11)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)、『バクマン。』(15)など、数多くの大ヒット作を生み出してきた川村。実写映画の娯楽作から重厚な人間ドラマ、アニメーション作品まで守備範囲が広く、『君の名は。』では新海監督を大舞台に引っ張りあげた目利きにもうなった。とにかくこの方、打率が高い。そんな川村でも『怒り』を手掛けるにあたってかなりのプレッシャーがあったようだ。

「『悪人』はキネマ旬報で1位をいただいたり、モントリオール世界映画祭で賞をとったり(深津絵里の最優秀女優賞)、ありがたいことに、これ以上評価を得るのは難しいと思えるくらいでした。再び李監督や吉田さんと組むということで、お互いに6年間の成長をどう見せられるのだろうかと考えたんです。それで日本映画として映像や俳優さんのレベルを高めたり、坂本龍一さんに音楽を作ってもらったりと、映画の隅々までこだわりました。結果、ハリウッドやヨーロッパの作品と勝負できるものが作れたかなという気はしています」。

『怒り』は逃亡中の殺人犯を巡り、彼を取り巻く周りの人々の心が揺さぶられていくというサスペンスドラマ。千葉・東京・沖縄という3つの舞台で、3つの物語が同時進行していく形式だ。渡辺謙を筆頭に、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、宮崎あおい、妻夫木聡という人気実力を兼ね備えた俳優陣が白熱の演技を魅せる。

原作者の吉田から「『オーシャンズ11』(01)のような豪華キャストを」というリクエストが入ったそうだが、その言葉にふさわしい豪華な布陣となった。「3人で相談して、キャスティングは僕が動いていきました。『悪人』でがっちりやったチームなので、原作者や監督、映画製作者といった垣根を超えて意見交換をし合える仲でした」。

メインキャストは、川村が過去に仕事をしてきた信頼のおける俳優を中心に選んでいき、沖縄パートの広瀬すずと佐久本宝が演じた2役だけはオーディションで選んだと言う。「結果、かたやスター女優、かたや全く無名の新人男優に決定しました。オーディションだったので、役にいちばん合うのは誰だろうかと話し合って決めました。何が良かったかと言うと、ただ人気があるだけじゃなく、クオリティに対してこだわりがある人たちが集まったことです」。

映画業界全体として考えても川村プロデューサーの功績は大きいが、ご自身は映画興行の数字を第一に思っているわけではない。「僕が映画業界全体について考えるのはおこがましいと思っていて。ただ、僕が普通に映画ファンで、新しいセンスの映画を観ることが好きな人間というだけです。(アレハンドロ・ゴンサレス・)イニャリトゥ監督の『レヴェナント:蘇えりし者』(15)やクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(14)を観ると、彼らはハリウッドというエンターテインメントのド真ん中で、ちゃんとクオリティムービーをやっている。それが日本でできないというのは言い訳なんじゃないかなと思ったりします」。

ちょうど6年前に『告白』や『悪人』を作った時、特にそういうピュアな気持ちになっていたそうで、6年経って再びチャレンジを試みたのが『怒り』だったそうだ。「YouTubeでポップスを聴くのもいいと思うけど、たまにはちゃんとした格好で、格式のあるホールでクラシックのコンサートも聴いた方がいいのかなと。そういう重厚なものを観たいという人たちもいるんじゃないかという仮説を立てて臨んだ感じです。時代に合わせようというよりは、一流のクラシックコンサートになるにはどうしたらいいのかということをすごく考えて作りました。いまは笑って泣けてハッピーエンドの映画が中心となっているけど、たまには“えぐられる”という娯楽もあるよね、というところです」。

川村は、自身をロックフェスのオーガナイザーにたとえる。「面白いバンドを集めて面白いフェスになったら、お金はかかるけど人もいっぱい来るだろうと。そこは信じるしかないです。逆にここまでやって、もし一般の人に届かなかったら諦めてしまうかもしれない。これは映画業界だけじゃなくて、映画にまつわるメディアの人たち全員が背負っている問題だとも思います。正直、いろんな人が本気になってやらないとやばいという気持ちはありますね。僕はオーガナイザーとして、祭りを作ることは面白いと思いますが、実際に祭りが成功するかしないかは神のみぞ知るところです。ただ今回は、祭りに来た人を十分に楽しませるものにはなったのではないかと思います」。【取材・文/山崎伸子】

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