浅野忠信、3週間で13kg体重増の筒井真理子に驚嘆!

インタビュー

浅野忠信、3週間で13kg体重増の筒井真理子に驚嘆!

わかりやすい陰があるわけではないけど、どこかが怪しい男。彼に魅力を感じて恐る恐る近づいていくと、突然足をすくわれる。浅野忠信が最新主演映画『淵に立つ』(10月8日公開)で演じた八坂草太郎はそういう男だ。これまで何度も得体の知れない役柄を演じてきた浅野だが、本作では姿を見せない時でさえも怖いという真骨頂の存在感を見せている。浅野にインタビューし、本作の撮影秘話や海外での映画作りについて聞いた。

浅野が演じる八坂は、下町で金属加工業を営む鈴岡家の主人・利雄(古舘寛治)の前に突然現れる。2人は旧知の間柄のようで、八坂は住み込みで働くようになり、妻・章江(筒井真理子)からも好意を抱かれるようになる。ところがある日、八坂はある残酷な事件を起こし、そのまま姿を消す。本作は第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 審査員賞を受賞した話題作だ。

通常のありふれた家庭の風景が、その事件後に一変する。とりわけ妻の章江は、普通に明るくてきれいな奥さんという印象の風貌から、生気を吸い取られたおばさんのようになっている。筒井は撮影の前半と後半で雰囲気を変えるために、3週間で13kgも体重を増化させた。これには浅野自身も驚いたようだ。

「あのギャップにはやられました。前半ではあんなにおしとやかに色っぽくふるまっていたのに、後半で『その体のお肉を見せますか?』と。でも、あのコントラストがなければ、前半が生かされないですから。実は正直、前半を一緒に演じていて不安を感じていたんです。このお母さんがこのままいっても、あまり悲しくないかもしれないと。あんな引き出しを持っていたのなら最初から教えてくれれば良かったのに(苦笑)。本当にびっくりしましたし、僕は後半が大好きです」。

メガホンをとった深田晃司監督は「家族とは不条理なもの」という価値観を持ち、本作を手掛けたというが、浅野も大いに賛成だったそうだ。「どの家庭もそうだと思います。

まともな家族なんてあまり見たことがないというか、絶対に何かしらありますよね。『僕の家が一番ひどいと思っていたけど、君の家もひどいね』という話もよくあることですし。子どもは最初から『周りから見ると家はひどい』と思って育っちゃうので、やっぱり学校がもっと自由で、もう少しの可能性を見つける場所であってほしいと思います」。

浅野は学校や映画の現場なども一つの家族だと捉え、いろんな家族のなかで自分の本当の家族を見つめ直していると考えている。「だからこういう映画はもっと作られるべきだと思います。『なんだ、家だけじゃないんだ』と観るべきだし、ほのぼのしている家族だけが当たり前みたいに描かれているとけっこう窮屈だし。深田監督の家族の話もすごく面白くて全然まともじゃないけど、そういう家庭で育った人がこういう映画を撮るからリアルなんだなとも思いました」。

家族といえば、浅野は母方の祖父が北欧系アメリカ人で、実際にアメリカの家族に出会えたことで、アメリカ映画の見方が変わったそうだ。「ミネソタやインディアナにもファミリーがいたんです。それがわかってからは、ファミリーがいる国ではちゃんとした仕事をしなきゃと思うようになりました。実際に彼らは僕の作品をよく観てくれていますから。この間はインディアナのおじさんの誕生日会に行ったのですが、日本にはない独特のファミリー感がありました。そういうものを見られただけで、役者としても面白い経験をさせてもらったし、一人の男としてもすごくピュアで良い時間を過ごさせてもらったと思いました」。

浅野は自身のルーツを知ってから、自分が日本人の俳優だというアイデンティティを強く感じるようになったようだ。「若い頃は訳もわからずにいろんな国へ行っていたのですが、今はもう自分は日本人でしかないから、日本以外には絶対に住めない 。今後もアメリカ映画や他の国の映画にも出たいとは思いますが、出るのなら日本人役で出させてほしいと思いますし、本当なら日本映画だけやらせてほしいとも思っています」。

ボーダレスな活躍を続けてきたからこそ、行き着いたその境地が実に興味深い。いずれにしても、日本映画界においてずっと頼もしい存在であり続けてほしい。【取材・文/山崎伸子】

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