浪華悲歌(なにわえれじい)|MOVIE WALKER PRESS
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浪華悲歌(なにわえれじい)

2006年9月9日公開,71分
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戦前の女性映画を代表する傑作。「祇園の姉妹」「雨月物語」などの脚本家・依田義賢と溝口が初めてコンビを組んだ、記念すべき作品。当時19歳の山田五十鈴が美しい。

ストーリー

※結末の記載を含むものもあります。

アヤ子は会社の金を横領した父親のため、勤め先の社長の愛人となり借金を肩代わりしてもらう。さらに兄の学費を工面するため、男を騙して逮捕されてしまう。恋人にも逃げられ家へ戻った彼女を家族は冷たく突き放す。

スタッフ

溝口健二

監督

作品データ

配給
1936角川ヘラルド映画
上映時間
71分

[c]松竹 大谷

  • rikoriko2255

    やまひで

    3.0
    2017/6/19

     まずは、本作が成立した1936年という年を考えてみよう。この年と言えば、二・二六事件があった年。翌年には日華事変が始まる。満州事変からは既に5年が経っており、国際的には日本は孤立し、国内的には全体主義的国家体制確立への道を日本が確実に歩んでいる時期である。

     映画史的には、この年は、1920年代後半・末のプロキノ、傾向映画の時期は早くも過ぎて、検閲も厳しくなっている時期である。イデオロギー的には、翌年の1937年には、文化ナショナリズムを喧伝する、日独合作映画『新しき土』(伊丹万作、Arnold Fanck監督)が発表される時期である。であるから、本作のように、昭和初期の「昭和モダン」を描き、そこに、洋装の、釣り鐘型帽子クローシェを被らせた「モガ」を登場させるのは、場違い、或いは「時代遅れ」の感がしないでもない。だからこそ、家族の絆を自ら断ち切り、家を飛び出した、「不良少女」という「病気」持ちの若い女が前を向いて自信ありげに歩くという、1920年代末であれば、アバンギャルド的な内容のメッセージを持ちうる本作が、検閲に通ったのかもしれない。この事情を裏書きするように、美人局の訴えに、警察署に事情聴書に引っ張られた主人公を、新聞係りの刑事は、「かわいそうだ。」と言い、直接に事情聴取に当たった刑事(志村喬)が、今回は見逃してやると言う。所謂「女性映画」の社会批判性というのは当局からはこの程度に見られていたのであろうか?

     本作、しかし、1930年代半ばの、大阪の風情を活写している。冒頭の、夜のイルミネーション。「花王石鹸」と「キャバレー 赤玉」の広告塔が夜空に映える。モダンな高級マンションの、現代建築の花とも言えそうな玄関口、そごうデパートの化粧品売り場、そして、そこのレモンスカッシュが飲める、喫茶室、はたまた、地下鉄の車内と地下道、そして、モダンな建築の警察署の建物と、そこに佇むモガの主人公の姿。何れも、和服姿の主人公、浄瑠璃の場面と好対照をなして、描かれている。

    原作は、監督の溝口。脚本は、本作で溝口とは初顔合わせ、その後は溝口が亡くなる前年まで付き合うことになる、依田義賢。キャメラマンは、1933年の『祇園祭』以来、終戦まで溝口と付き合う三木稔(後年、「三木滋人」と改名)。主人公役の山田五十鈴は言うまでもないが、その脇を支える志賀廼家弁慶(主人公を囲う薬種問屋主人)と、その妻役の梅村蓉子がなす漫才風の夫婦善哉は、本来暗いはずのストーリーにユーモラスさを醸し出して秀逸である。尚、製作はのちに大映の社長となる永田雅一が興した「第一映画社」であり、ここに上述の秀逸たちが結集して、本作を制作する。本作と同年に制作された『祇園の姉妹』は、スタッフ・キャストからして、本作の姉妹編と言えるのである。

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