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【特別寄稿】入江悠監督が見つめる、映画業界の未来と分断のグラデーション

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【特別寄稿】入江悠監督が見つめる、映画業界の未来と分断のグラデーション

新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言を受け、休業要請施設の対象となった映画館。日々状況が変わるなか、自粛休業に追いこまれたミニシアターの苦境に対し、真っ先にアクションを起こした映画人の一人が入江悠監督だった。自身のブログでの発信、全国のミニシアターへのオンラインインタビュー配信などを続けてきた入江監督に、映画業界の未来について寄稿いただいた。

Movie Walkerに特別寄稿してくれた入江悠監督
Movie Walkerに特別寄稿してくれた入江悠監督

新型コロナウイルスの影響で自粛をしていた映画館が、少しずつ再開へ向けて動きだしている。といっても、全国でまだごく一部の映画館のみだ。
2020年5月17日現在、東京、大阪はじめ都市部では依然として自粛休業中で、いつ営業再開できるか不透明な映画館が多い。緊急事態宣言が延長された県と解除された県があるためだ。
ここに、ある分断が生まれつつあると私は考えている。その分断について考える前に、現在までのミニシアター支援の流れについてまとめておきたい。

自粛を迫られたミニシアターへの支援

そもそものはじまりは、自粛休業要請だった。ライブハウスや劇場と同じく、映画館も国や自治体の要請を受けて、自粛休業に追いこまれた。これにより、ハコを持っている映画館が早晩経営難に追い込まれることは明白だった。私たち映画製作者も仕事はストップしたが、映画館は毎月の固定費がかかるので、追い込まれるスピードがより速い。特に地元の有志や個人の力で成り立っているミニシアターは、あっという間に閉館に追い込まれるおそれがある。

(1)4月4日、私は、日本各地のミニシアターが独自に行っているクラウド・ファンディングや通販の取り組みをブログで一覧にして発信した。外出できない映画ファンが家にいながら支援できないかと考えたためである。(入江悠ブログ「全国ミニシアターを応援したい」)

(2)時を同じくして、ミニシアターの苦境を救うため、「Save The Cinema」というアクションが起こった。私は映画監督の諏訪敦彦さんからお声がけいただいて参加した。包括的にミニシアター文化を救うため署名活動を続けており、現在で8万5千筆以上が集まっている。今後、同じくコロナ禍にあえぐ演劇や音楽のアクションと連携をとり、各省庁へ助成をうながす活動をしていく。

#SaveTheCinema「ミニシアターを救え!」プロジェクトロゴ
#SaveTheCinema「ミニシアターを救え!」プロジェクトロゴ

(3)また、深田晃司監督と濱口竜介監督が発起人となり「ミニシアターエイド基金」が始まった。多くの映画ファンや映画関係者から募金が集まり、5月15日の締め切りまでに3億3千万円超を達成した。このお金は各ミニシアターへ配分されて、当座の運営資金に当ててもらうことになる。

「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」ロゴ
「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」ロゴ

そして現在。全国各地のミニシアターが緊急事態宣言の動向を見ながら、映画館の扉を再び開けるか、もうしばらく様子を見なければならないか、それぞれ判断している状況だ。
そして、ここにひとつの分断がある。再開できたミニシアターと、依然として自粛休業に追いこまれているミニシアターという分断だ。
私は個人的に全国のミニシアターに動画インタビューを行い、聞き取りをしてきた。

【コロナ禍の映画館】深谷シネマ・竹石研二(館長)×入江悠インタビュー

インタビューさせていただいたなかでも、すでに再開できたところとそうではないところの分断が起きている。
私は、再開できたミニシアターの喜びを共有する一方で、依然として一時休館を続けざるを得ないミニシアターの悲しみを思う。その心中はいかばかりだろうか。

■入江悠 プロフィール
1979年生まれ。『SR サイタマノラッパー』(09)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリ、第50回日本映画監督協会新人賞など受賞。『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11) で高崎映画祭新進監督賞受賞。その他に、『日々ロック』(14)、『ジョーカー・ゲーム』(15)、『太陽』(16) 、『22年目の告白-私が殺人犯です-』『ビジランテ』(ともに17)、『ギャングース』(19)など。2020年には『AI崩壊』が劇場公開された。
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