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坂本龍一、独白5000字。コロナ禍のNYで語った、“いま”伝えたいメッセージ

インタビュー

坂本龍一、独白5000字。コロナ禍のNYで語った、“いま”伝えたいメッセージ

「優れた作品は、映像と自然音だけで交響曲を奏でる」

『Ryuichi Sakamoto: CODA』が、期間限定で5月22日より「KADOKAWA映画」公式YouTubeチャンネルで無料配信中
『Ryuichi Sakamoto: CODA』が、期間限定で5月22日より「KADOKAWA映画」公式YouTubeチャンネルで無料配信中[c]2017 SKMTDOC, LLC

「映画音楽では、仕事をするたびに途中で『もう嫌だ!絶対にもうやりたくない』と、周りに文句を言ってしまいます(苦笑)。それほど、この作業はストレスが大きい。結局自分で『これが最高だ!』と思って作っても監督の趣味と合わなかったり、評価の基準が違ったりすると作り直さなければいけない。自我との闘いですね。ただ、監督自身も好き勝手にやっているわけではなく、プロデューサーや会社、投資してくれる人の意向や、マーケットの動向などを考え、いろいろな重圧のなかで仕事をしている。これはきっと、どの職業でも同じなんでしょうね」

坂本に、お気に入りの映画監督を尋ねると、アンドレイ・タルコフスキー、ロベール・ブレッソン、エドワード・ヤンらの名前を挙げた。「この3人は本当に寡作ですが、どれもすばらしい映画ばかり。どれか一作だけ好きな映画をあげろと言われれば、ブレッソンでしたら『少女ムシェット』、タルコフスキーは『鏡』、エドワード・ヤンは、『クー嶺街少年殺人事件』か『ヤンヤン 夏の想い出』ですかね。しかしどの作品もすばらしいものです。そして3人とも音に対する感覚がすごく鋭敏で、ブレッソンやヤンの映画では、いわゆる映画音楽はほとんど入っていません。
実は僕、映画音楽を仕事にしているにもかかわらず、たくさん音楽が入っている映画は好きじゃないんです。以前、ヴェネチア国際映画祭の審査員として呼ばれ、3本好きな映画を選んだ際もたまたま3本ともが映画音楽を一切使ってない作品でしたが、その時は自分の職業を否定しているなと思いました(苦笑)。でも、映画のなかの音楽は少なければ少ないほど、僕は好きですね。
なぜなら映画のなかには、現実と同じように音が溢れているから。役者がしゃべるし、虫も鳴くし、鉄砲の音もする。優れた監督は、そのすべてを音楽的に処理をしているので、それだけで十分です。タルコフスキーの書いた本にも、まさにそのことが書かれています。彼のような人は自然音だけでいわば交響曲のようなものを作っていると思うんです。彼は本当に音楽家のような人で、映像と、それに伴う音で音楽を作っていると感じます」


最後に、坂本の音楽家人生が詰め込まれた本作をいま、無料で公開することに同意した心境を尋ねてみると、穏やかにこう切りだした。
「日本で、欧米のような感染爆発が起きなかったのは本当に不幸中の幸いですが、自粛生活はまだまだ長期戦になると思っています。家に閉じこもっている人たちが、だんだんゲームをやるのにも飽きてきて、動画配信サイトで観たい作品もすでに全部観てしまったという時、もし時間があれば、このような映画も観ていただきたいなと。でも、もしかして第二波が来るかもしれないし、たとえ非常事態宣言が解除されても、すべてが以前と同じようになるとは言えないでしょう。少なくともワクチンが普及するまでは抑えた行動を長期的にしていかないといけない。だからひまつぶしでいいです。この映画で少しでも気分を変えていただけたらと、そう願います」

取材・文/山崎伸子

【無料配信 詳細】
タイトル:『Ryuichi Sakamoto: CODA』
本編分数:102分
配信期間:2020年5月22日(金)15:00 ~ 5月28日(木)23:59
配信場所:「KADOKAWA映画」 公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCHjj-qlJhYWDacFwnaewV6Q
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