『全員死刑』の小林勇貴監督が語るコロナ禍での生活と変わりゆく映画界、そしてこれからの制作活動|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『全員死刑』の小林勇貴監督が語るコロナ禍での生活と変わりゆく映画界、そしてこれからの制作活動

インタビュー

『全員死刑』の小林勇貴監督が語るコロナ禍での生活と変わりゆく映画界、そしてこれからの制作活動

新型コロナウイルスの蔓延による約2カ月間の緊急事態宣言下、劇場公開映画は延期され、映画館は営業ができず、クリエイターは活動ができない状況に追い込まれた。地元である静岡県・富士宮市の本物の不良たちを役者に起用した『Super Tandem』(14)、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリに輝いた『孤高の遠吠』(16)、そして間宮祥太朗と組んだ商業映画デビュー作『全員死刑』(17)といった型破りな作品を撮り続けている小林勇貴監督。現在最も注目されている若手監督のひとりである彼はこのコロナ禍でどんな生活を送り、どのような思いを感じていたのか。新作への野望と共にオンラインでのインタビューで語ってもらった。

小林監督の主な監督作はU-NEXTほかで配信中だ
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「何かを“勘違いした権力”という共通点を感じました」

――緊急事態宣言下ではどのような生活を送っていたんですか?
ほぼ外にでてないですね、家の前のコンビニくらい。『あつまれ どうぶつの森』をずっとやっていました(笑)。あれは最高ですね! そんななかで自粛期間中、警察の夜回り隊が歌舞伎町をパトロール中に歩行者をパンツ一丁にして調べて、何もなかったら舌打ちして去っていったというのをTwitterで見て、『人の尊厳はどうなるんだ!ふざけるな!』って思って。それで『暴動島根刑務所』(75)を思い出して、Google Playで観たんです。映画の中に看守が囚人に「両手を挙げてカンカン踊りをせえ!」っていう屈辱のシーンがあるんですよ」
――新型コロナウイルスだけでなく、人種差別の問題など世界の状況はかなり悪くなっているように見えます。
「歌舞伎町で起こったことと映画で描かれていたことは、何かを“勘違いした権力”という共通点を感じましたね。田中邦衛さん演じる囚人が、看守たちにいじめられながらも大事にブタを育ててるんですけど、殺されてしまうんです。それと同じように歌舞伎町の警官たちがしたことは人の大事なモノを奪って、「お前なんか大したことない」っていうことを示しているんですよ。そうすると暴力の連鎖が起こるんですよね。『暴動島根刑務所』は暴動を起こすことで「自分たちは“大したことある!”」ということを示し、刑務所内に囚人のシマをつくる話です。暴れまくって全部ぶっ壊して、塀の中に塀をつくっちゃうんですよ。もう大感動ですよ! そういう怒りをちゃんと示すことは大事なことです」

「映画業界だけでなくおろそかにされていることはたくさんある」

――コロナウイルスの影響で新作映画の公開延期が続き、先行配信されるというケースも少なくありませんでした。このスタイルについてはどう思いますか?
「全く良いかなと思います。映画館に対しては僕も言いたいことがあって。蹴ってもないのに『座席蹴るな』とか言われたり、スマホのライトが鑑賞の妨げになってもめているのを見たりすると、誰かを悪者扱いする場になっている映画館に行く必要はないんじゃないのかと思います」
――映画館やクリエイターを救うための「Save the CINEMA」などのクラウドファウンディングの活動もたくさん見られました。
「そうですね、でも公的な助成が出なかったのは許せないです。映画業界だけでなくおろそかにされていることはたくさんありますよ。『こうしてほしい』ってことを成立させるために国があると思っているのでそれをしないのであれば国ではない。全てをおろそかにしてはいけないと思います」
――コロナの影響で映画界のどんな部分が変わっていくと感じますか?
「必要のないシーンのために長時間の拘束とか深夜帯まで撮影することがなくなるんじゃないかと思います。使うか使わないシーンにまでみんなを労働させる意味のないことが減るので、それは良いことですね。「ウチ、たこ焼き屋だけど、ラーメンもつくってるよ!」って言わないでしょ(笑)。ちゃんと段取りをしていれば、撮りたいシーンは撮れるはず。平均1カットの撮影が15分と言われていて、段取り(芝居の構成の確認作業)→テスト(各担当の確認作業)→本番という流れが平均15分です。大掛かりな仕掛けがなければ、効率よく撮れるんです。撮れないやつは“保険”とか言っていりもしない余計なシーンを撮りたがるんですよ。実力のなさを埋めるために。必要なこと、やりたいことが分かっているんであればスケジュールにきちんとハマる」

【写真を見る】日本映画界の問題点などを率直に語ってくれた小林監督
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弱さや恐怖を感じてしまう人が本質に戻れるような作品をつくりたい

――自粛期間に支えになったものはありましたか?
「いろんな娯楽が支えになりました。例えば、漫画家の田房永子先生のnoteですね。ナインティナインの岡村さんの発言や『テラスハウス』の問題を書かれていて、とても感銘、反省、勉強になりました。あとはアート・ディレクターの高橋ヨシキさんがFacebookに書かれていたことも先程の“権力への怒り”への影響を受けて、心の支えになりましたね」
――監督はTwitterで新作をつくることを宣言してましたね。
「コロナの問題をきっかけに、なんでこんな嫌な人たちがたくさんいて、もうその人たちのために娯楽はつくりたくないとさえ思ったんです。でも身近なことに立ち向かう友人たちの姿を見て、自主映画をやりたいと思うようになりました。他人を嫌な人に感じてしまう仕組み自体を娯楽にできないかなと思ったんです。田房先生が“弱さ恐怖症”というものが人には備わっていると言っていて、それを読んで自分の中でハっと気付かされて、気持ちが180度変わりました。弱いと思われたくなくてしてしまう行動ってどれだけあるんだろう?って。そこに対しての反抗という意味で作品を撮りたいと思うようになりました。脳内のイメージはかなり固まっています。何かの代理戦争をさせられている気がするんですよね。憎かった人たちがそうでなくなったりしてきている。なんで弱さや恐怖を感じてしまうのかなって。そう感じる人が本質に戻れるような作品をつくりたいです」

インタビューから数日後、三池崇史監督が主催する新型コロナウィルス感染症の影響により映像制作が困難となったフリーランスの映画監督・助監督の支援のための企画コンテスト「カチンコ Project」に、新作『飼い殺しのバカンス』を応募した小林監督。熱い思いが込められたその企画が実現する日が来ることを、大いに期待して待ちたい。

取材・文/DVD&動画配信でーた編集部

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