映画ニュース 2020/7/2 20:15

『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督、英国の名優サー・イアン・ホルムを追悼【全文】

イアンに説明をしたら、彼もその案を気に入ってくれた。そして、私の母や叔父も長年パーキンソン病を患っていたので、病に関して多少の知識はあるとも述べた。この時点では、私たちは彼に演じて欲しい新しいシーンについて説明し、彼はなぜ出演することができないのかを説明する場だった。だが唐突に、私たちとイアン、彼の妻のソフィーの食事会はイアンが最後にもう一度ビルボ役を演じるにはどうしたらいいかを考えるシンクタンクのようになっていった。我々はニュージーランドで撮影をするけれど、彼のシーンだけロンドンの自宅の近くにやってきて撮るのはどうだろう？　食事が終わる頃には、イアンは静かに頷き、“そうだね、それならできるかもしれない”と言ってくれた。それでも、彼がそう言ってくれたのは私への善意からだとわかっていたので、涙を浮かべながら彼の手を握り感謝した。

ビルボを演じたマーティン・フリーマンは、ホルムのため老ビルボの特殊メイクで演じたシーンも画像はPeter Jackson(@PeterJacksonNZ)公式Facebookのスクリーンショット

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ニュージーランドで若きビルボ役のマーティン・フリーマンの撮影を始めた。マーティンはイアン・ホルムを尊敬していたけれど、一度も会ったことはなかった。マーティンは、イアンが演じた老ビルボの特殊メイクをつけることを受け入れ、ニュージーランドで必要な撮影を行った。マーティンはイアンの特徴をよく捉えていた。

数か月後、ロンドンに戻り袋小路屋敷のセットで、イアンのシーンを約束どおり最小限のスタッフで撮影した。イアンの素敵な妻ソフィーは毎日彼に寄り添い、我々と彼を助けてくれた。4日間で全ての撮影を終了した。イライジャ・ウッドとイアンは『ロード・オブ・ザ・リング』からの友情で結ばれていて、イライジャはロンドンでの撮影に毎日やってきてイアンをサポートしていた。

完成版の映画では、観客にはイアン・ホルムがビルボを演じる姿だけを観て欲しかった。だが、セットで私が経験したのは、素晴らしい俳優が彼の最後の演技をする姿だった。彼にとってとても勇気のいることだったと思うし、現場にいた我々みんながとても感傷的になった。我々はいつも心からイアンに感謝している。ともに過ごした時間をフランと私はとても楽しみ、彼の大ファンになった。

映画の完成を祝うために、イアンとソフィーは私たちを彼の家に招き、夕食を共にした。とても素敵な夜で、ユーモアと楽しさに溢れていた。イアンと私は共にナポレオンに興味があることを知り、何時間も話をした。

1年後、『ホビット思いがけない冒険』のプレミアがロンドンで開かれたとき、スターが一堂に会するなか、マーティンはようやくイアン・ホルムに会うことができた。
いつものように静寂なイアン・ホルムの演技は、私にたくさんのことを教えてくれた。彼と作品を作れたことは光栄で、そして彼を知ることができたのは天恵のようなものだ。私は『王の帰還』(03)のラストシーンでのイアンの演技がとても気に入っている。
“新たな冒険に出る時が来たようだ”

さよなら、親愛なるビルボ。最愛なるイアン、良い旅を。