『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督が読者の疑問に次々回答!名作誕生の“秘密”が明らかに|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督が読者の疑問に次々回答!名作誕生の“秘密”が明らかに

インタビュー

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督が読者の疑問に次々回答!名作誕生の“秘密”が明らかに

2016年11月に公開されて以来、異例のロングラン上映を果たした『この世界の片隅に』に250カットを超える新エピソードを加えて新しい切り口で描き直した『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のBlu-ray&DVDが、本日ついに発売となった。片渕須直監督が徹底したこだわりをもって現実と地続きになっているような緻密な世界を作り上げ、国内外でいまなおファンを増やし続けている本作。

MOVIE WALKER PRESSでは、Twitterにてユーザーから質問を募り、片渕監督ご本人に答えてもらう“AMA”(=Ask Me Anythingの略。ネットスラング風に言うと「片渕須直だけど、なにか質問ある?」といった意味)を実施!読者の疑問・質問、そして愛を監督に届けた。
前後編でお届けする本インタビュー、この前編では制作秘話、次回作の構想などを直撃。作品作りの原動力が明らかとなった。

「通常版の時点で長尺版の構想は出来ていたと伺っていますが、2016年以降『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を制作中に、細かいところなどで構想とは変わった点などはありますでしょうか?」(20代・男性)

片渕監督に、読者のギモンをぶつけてきた!
片渕監督に、読者のギモンをぶつけてきた![c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

「2016年版を作り終え、その次に新しいものを作ろうと思った時に、単純にカットを増やした、いわゆる“長尺版”と言われるものとは違うものにしようと思っていました。2016年版は『今回の映画では描かないようにしよう』とあえてオミットしたシーンもあったのですが、それらを復活させるだけではなく、もっといろいろなことを追加しています。
例えば昭和20年9月17日、終戦直後に起きた枕崎台風のエピソードは、2016年版の原型となる絵コンテにすでにあったのですが、2018年の呉での水害をはじめ、各地の風水害を見ていると、枕崎台風をどのように物語のなかで描くのかということも、また改めて真剣に捉え直さなくてはいけないと思いました。いま起きている水害を目の当たりにした時に、75年前の水害も遠い時代の出来事ではなくなる。つまり欠番となっていたエピソードを単に復活させるだけではなく、それに対しての解釈も変わってくるということです。本作に携わりながら、作品で描かれている戦時中という時代も、自分たちと縁のない、隔絶されたものではないんだということを実感し続けています」

「以前、監督は『リンさんと周作との場面を全部描くとすずさんをいじめすぎてしまう。戦災だけでもたいへんなのに、個人的なことまで背負わせたら、すずさんが戦争が終わっても再度立ち直れなくなってしまう』という理由でリンさんのエピソードをカットしたと話しておられました。今回、描写を復活させることに葛藤のようなものはありましたか?」(20代・男性)

周作をめぐる、すずとリンの関係性も描かれる
周作をめぐる、すずとリンの関係性も描かれる[c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

「本作でのすずさんは傷ついた顔で終わるべきなんだ、と思いました。そこが2本の映画の間で考え方の差になっているところです。今回追加されたすずさん以外の片隅、『いくつもの片隅』は、傷つけられたり、失われてしまった人たちの人生です。そうしたものを喪失感としてすずさんは抱えたままあの先の時代も生きていかなくてはならない。
終盤近く、すずさんが以前に住んでいた江波を訪れるシーンもありますが、そこですずさんが見せる、より傷ついて喪失感の中にいる顔は、2019年版用の絵コンテにもなかったカットです。リンさんのことを描いた上で存在するこの作品はどういうものであるべきなのだろう、と考えたとき、すずさんのそんな表情は絶対に描かなければならない、新しい作品にとっては大事なことになると思い、最後の最後に付け足しました。
戦争が終わったからといって、立ち直るのではない。ずっといろいろなものを抱えながら、その先も生きなければいけなくなったすずさん。それを、最後に見せたいと思いました」

「片渕監督の作品に登場する女性は、すずさんをはじめ、とても魅力的です。それは女性だから魅力があるというわけではなく、その人の持つ固有の輝きが描かれていると感じるからです。片渕監督がアニメーションをつくる際、女性(少女)のキャラクターを表現する時に意識していることはありますか」(30代・女性)

すずが胸の内に抱えていた葛藤が明らかとなる
すずが胸の内に抱えていた葛藤が明らかとなる[c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

「おそらく僕が女性ではないので、少し客観的な目で見た描き方が出来るんだろうなと思っています。自分が男性を描くとなると、もっと自分のなかにあるものが出てきてしまって、それに気を取られてしまいそうです。気をつけているのは、偶像にならないようにすることです。すずさんの場合、特に本作ではいろいろなネガティブな面が出てきます。看板のように平面ではなく、裏も横も、上も下もある立体的な人として存在してくれないといけないと思いました。

すずさんを演じているのんちゃんには、2016年版のマイクテストの段階で『すずさんが口で言っていることは、あまり信用するに値しない』という話をしました。すずさんの心は二階建てになっていて、本音は床下の方にあるんだと。つらいことがあっても、表面的にはそれを出さずにニコニコしているというのが、すずさんに対しての解釈です。のんちゃんは2016年夏のアフレコを終えたあともそのことを考え続けてくれたようで、本作でもきっちり二階建てのすずさんを浮かび上がらせてくれています」


■商品概要
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』Blu-ray特装限定版
価格:9,800円(税抜)
発売中
収録時間:470分【本編DISC】182分(本編168分+映像特典14分)、【特典DISC】288分
スペック:【本編DISC】ドルビーTrueHD(5.1ch)・リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G/16:9<1080p High Definition>・一部16:9<1080i High Definition>、バリアフリー日本語字幕付(ON・OFF可能)
【特典DISC】リニアPCM(ステレオ・一部モノラル)/AVC/BD50G/16:9<1080i High Definition>

封入特典:●特製ブックレット
     ●特典DISC
     ・ドキュメンタリー映画『<片隅>たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』
      (2019年公開/監督:山田礼於/95分)
     ・昭和のくらし博物館特別展映画『この世界の片隅に』~すずさんのおうち展
     ・練馬アニメカーニバル2018『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』公開2ヶ月前トーク
     ・練馬アニメカーニバル2019『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』公開1ヶ月前トーク
     ・公開前劇場トーク ・東京国際映画祭2019 ・広島国際映画祭2019
     ・『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』スペシャルライブ付先行試写会
     ・劇場舞台挨拶集 ・片渕須直×町山智浩トークイベント
映像特典:特報、 特報2、 劇場予告編、 TV SPOT、 のん&岩井七世 スペシャルインタビュー&アフレコ映像、ノンクレジットエンディング
仕様:●浦谷千恵(監督補・画面構成)描き下ろしイラスト仕様特製収納ケース
   ●特製インナージャケット
※Blu-ray(通常版)[4,800円/税抜]、 DVD[3,800円/税抜]も発売中です。
※映像特典は 3アイテム共通です。

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