圧巻のビジュアル世界を誇る『落下の王国』…石岡瑛子の衣装、ロケ、演出に見る壮大すぎるこだわりとは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
圧巻のビジュアル世界を誇る『落下の王国』…石岡瑛子の衣装、ロケ、演出に見る壮大すぎるこだわりとは?

コラム

圧巻のビジュアル世界を誇る『落下の王国』…石岡瑛子の衣装、ロケ、演出に見る壮大すぎるこだわりとは?

『インモータルズ 神々の戦い』(11)や『白雪姫と鏡の女王』(12)を手掛け、その独特なビジュアルセンスで観る者を魅了する映像作家、ターセム・シン。“映像の魔術師”とも称される彼が、注げる限りの製作費と期間、情熱をもって生みだしたのが長編2作目『落下の王国』(06)だ。一度観たら忘れることのできない壮大な世界観が広がる本作を、制作秘話や世界的な衣装デザイナー、石岡瑛子による強烈な個性あふれる衣装と共に振り返りたい。

ターセム・シン監督が注げる限りの情熱を注ぎ込んだ『落下の王国』
ターセム・シン監督が注げる限りの情熱を注ぎ込んだ『落下の王国』[c] 2006 Googly Films, LLC. All Rights Reserved.

物語は1915年、ロサンゼルスにある病院で、一人の少女が足をケガした無声映画のスタントマンと出会うところから始まる。ベッドから動くことができないスタントマンは、自分が作ったおとぎ話を少女に聞かせる。それは悪行の限りを尽くす悪者に、6人の勇者が力を合わせて立ち向かう冒険譚。しかし、この物語は、薬剤室から自殺用の薬を盗ませようと、少女の興味を引くためにスタントマンが思いついたものだった。

少女、アレクサンドリアを演じるのは、ターセムが世界各国を飛び回り、ルーマニアで見つけてきたカティンカ・アンタルーという一見どこにでもいそうな女の子。スタントマンのロイには、のちに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14)のロナン役、「ホビット」シリーズのエルフ王スランドゥイル役でブレイクしたリー・ペイスがキャスティングされている。

失恋がきっかけで動き始めた?壮大な自主制作プロジェクト

構想期間は20年以上におよび、ほとんどCGは使わずに、南アフリカやイタリア、インド、アルゼンチンなど世界24か国以上でロケを敢行。これだけ大がかりなプロジェクトながら、本作はターセム自身による自主制作的な作品となっている。

そもそも本作の企画が動きだしたのは、ターセムの個人的な出来事がきっかけだった。彼がそろそろ家庭を築きたいと思った矢先、長年の恋人が突然、彼のもとを去ってしまう。その時の意気消沈ぶりは相当だったようで、様子を見かねたターセムの弟が「あの映画を撮ろう」と提案したそうだ。本作の主人公ロイも、恋人を自身がスタントしている俳優に奪われ、自暴自棄になっているという背景があり、監督自身の経験が反映されているのかもしれない。

圧倒的なビジュアルセンスで観る者を魅了するターセム・シン
圧倒的なビジュアルセンスで観る者を魅了するターセム・シン写真:SPLASH/アフロ

世界各国で行われた驚異的なロケ撮影

かねてよりターセムは、コマーシャル撮影で世界各地の映像を記録し、映画に使用したい場所を探してきた。ロイがアレクサンドリアに物語を聞かせる病院は、南アフリカのケープタウンにある建物で撮影されているが、空想の世界は、彼が実際に足を運んで目で確かめた秘境や歴史的建造物でロケが行われている。ヒマラヤ山脈を臨む標高3000mを越えるラダックで撮影を行った際は、高山病に注意して数日おきに休みを取り、爆発シーンは撮らないと約束したにもかかわらず、霊者が登場する場面で木を燃やしたため現地の兵士を怒らせてしまうなど、それぞれのロケ地ならではの苦労もあった。

ヒマラヤ山脈を臨むラダックで撮影された幻想的なシーン(『落下の王国』)
ヒマラヤ山脈を臨むラダックで撮影された幻想的なシーン(『落下の王国』)[c] 2006 Googly Films, LLC. All Rights Reserved.

同じ場所を数か月おきに訪れては少しずつ撮影することもあり、あとになって追加撮影が必要になった際には、主演のペイスに飛行機のエコノミークラスでスペインまで飛んで来てもらうということも。このような採算度外視の制作現場に集まったスタッフたちもまた、ターセムの意志の賛同した人ばかりで、ギャラはキャストも含めて全員平等に、同じ額が支払われたそうだ。

■日本テレビ「映画天国」:『落下の王国』
12月8日(火)午前1:59~(月曜深夜)
https://www.ntv.co.jp/eigatengoku/articles/536w8bnlordybvvltua.html

■「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/
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