佐藤信介が語る、“今際の国”の裏側「自主映画時代のように、夢中で作品を作れた」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
佐藤信介が語る、“今際の国”の裏側「自主映画時代のように、夢中で作品を作れた」

インタビュー

佐藤信介が語る、“今際の国”の裏側「自主映画時代のように、夢中で作品を作れた」

人影が消えた謎の世界で命を懸けた“げぇむ”に参加させられる青年、アリス(山崎賢人)の闘いを描く超大作『今際の国のアリス』(Netflixにて全世界独占配信中)。監督を務めたのは、『GANTZ』(10)や『キングダム』(19)などで圧倒的な映像センスを見せつけてきた佐藤信介だ。リアリティに徹底的にこだわった監督は優秀なVFX&美術チームと共に、人のいない渋谷のスクランブル交差点や“げぇむ”に現れるクロヒョウを緻密に再現。革新的なビジュアルで日本映画界に新風を巻き起こしてきた佐藤監督はどのような想いで本作に臨んだのか。その挑戦の裏側をきいた。

アリス(山崎)は、“今際の国”で命がけのサバイバルを余儀なくされる
アリス(山崎)は、“今際の国”で命がけのサバイバルを余儀なくされる[c]麻生羽呂・小学館/ROBOT

麻生羽呂による人気漫画を原作とした本作の舞台は、命を懸けて“げぇむ”をクリアしなければ生きられない過酷すぎる“今際の国”。人生に夢や生き甲斐を見出せずに生きてきた青年、アリス(山崎)がある日突然異世界に迷い込み、クライマーのウサギ(土屋太鳳)と共に、決死のサバイバルに挑むという、全8話のドラマだ。

「Netflixならではのフォーマットで、世界観をとことん突き詰められた」

セットとCGで完璧に再現された渋谷を、カメラは縦横無尽に駆け回る!
セットとCGで完璧に再現された渋谷を、カメラは縦横無尽に駆け回る![c]麻生羽呂・小学館/ROBOT

――ドラマの1シーズンを全て監督するのは、ご自身初。実際にやってみて、いかがでしたか?

「Netflix側から『全体のトーンを一貫させてほしい。映画だと思って撮ってほしい』と要望があり、であれば全話を監督したいと自分からお願いしたんです。Netflixは映像のテイストをとても大切にされていて、その考えにすごく共感しましたね。僕自身も、自分のスタイルやトーンにこだわって作品をつくっています。1本にまとめあげるためにも、全話の監督は必然でした」。

【写真を見る】見分けがつかない…渋谷駅を超巨大セットで完全再現!「今際の国のアリス」の舞台裏
【写真を見る】見分けがつかない…渋谷駅を超巨大セットで完全再現!「今際の国のアリス」の舞台裏[c]麻生羽呂・小学館/ROBOT

――「Netflixならでは」と感じた部分はありますか?

「お互いの『画面のなにを良しとするか』の感覚がまったく同じで、すごくやりやすかったですね。この仕事をやっていると、クライアントと趣向性が乖離してしまうことって、たまにあるんです(苦笑)。今回は、僕たちが好きなテイストと求められるものが合致していたので、楽しかったですね。例えば、マニアックな部分ですが、画面上の“暗部”の表現など、存分に追求できました。こっちが『やりすぎか…。セーブしたほうがいいのか?』と迷っていたら、向こうが『全開でやろうよ。それが答えだ』と言ってくれる現場でしたね」。

改札付近も、この再現度!
改札付近も、この再現度![c]麻生羽呂・小学館/ROBOT

――つくり手として、とても幸福な環境ですね。

「もちろん大変なところや悩むことはありましたが、全体を通してその感覚はありますね。あと、各話の長さにバッファをもたせられたのがおもしろかったです。映画だと『2時間』という枠のなかに過不足なく詰めることが命題ですし、テレビドラマも尺は決まっている。でも、Netflixは多少はみだしたり、短かったりしてもOK。今回のように多数のキャラクターが入り乱れる異常な世界を描くにあたり、とことん突き詰められたのは大きかったです」。

「自主映画時代のように、夢中で作品づくりができた」

「自主映画時代のようだった」と撮影を振り返った佐藤監督
「自主映画時代のようだった」と撮影を振り返った佐藤監督[c]麻生羽呂・小学館/ROBOT

――山崎賢人さん、土屋太鳳さんと再び組んで、改めて魅力的に感じた部分はありますか?

「お2人とも、前回の役とは真逆の人物だったため、より新鮮に感じられましたね。山崎さんは、誇張した芝居もできれば、自然体の役柄もできる方です。ご本人はある種の不器用さが魅力なのにもかかわらず、演技では“七変化”を見せられるのがおもしろい。アリスという役も、最初はどこにでもいそうな青年だったのが、極限状況に置かれることで劇的にイメージが変わっていく。その変化を、見事に表現してくれました」。


土屋は多くのアクションシーンに挑みながら、ウサギの複雑な心情をも表現した
土屋は多くのアクションシーンに挑みながら、ウサギの複雑な心情をも表現した[c]麻生羽呂・小学館/ROBOT

「土屋さんと以前ご一緒した際は内向的な役柄でしたが、今回は本人の明るく活動的な部分を出してほしくて、ウサギ役をお願いしました。彼女は、ご本人に明確な魅力がありながらも、どんな役でも演じた瞬間にパっと豹変できる。その変貌ぶりには驚くばかりです。今回はことさら、そのすごさを感じましたね」。

――監督ご自身は、制作を通して「自主映画時代を思い出した」と発言されていました。その真意は?

「今回は自主映画時代のように自由に創造性を発揮して、夢中で作品づくりができた。だから余計に、そう感じたんだと思います」。

壮大なスケールで、“今際の国”が描きこまれている本作
壮大なスケールで、“今際の国”が描きこまれている本作[c]麻生羽呂・小学館/ROBOT

――ビッグ・バジェットの作品でありながら、原点回帰的な側面もあったのですね。

「はい。僕は広島の田舎出身で、小さい時には大作映画しか地元の劇場に回ってこなかったんです。でも当時の映画体験は強烈で、『自分もこんな作品をつくりたい!』と思うようになりました。その後上京し、自主映画をつくりつつ市川準監督や行定勲監督の作品に携わらせてもらい、商業デビューしていまにいたるのですが、本作の存在もあり、徐々に少年時代の“心”に戻ってきているんですよね」。

取材・文/SYO

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

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