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『ROMA』に『Mank』、『ライトハウス』…名匠たちが試みる“モノクロ映像”へのこだわり

コラム

『ROMA』に『Mank』、『ライトハウス』…名匠たちが試みる“モノクロ映像”へのこだわり

観客を遠い過去へと導き、極限の狂気や妄想が渦巻く映像世界に耽溺させる『ライトハウス』

また、モノクロ映画の大半は“時代もの”であり、観客を遠い過去へと疑似タイムスリップさせる効果を秘めている。例えば、第62回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『白いリボン』(09)は、1910年代のドイツの小さな村を舞台にしたミステリアスな群像劇。当時のモノクロ写真や巨匠イングマール・ベルイマンの作品に触発されて本作を撮ったミヒャエル・ハネケ監督は、豊かなニュアンスの陰影によって村に潜む得体の知れない悪意や、第一次世界大戦前夜の不穏な時代の空気をスクリーンに立ちこめさせた。

【写真を見る】ほぼ2人芝居!怪優、ウィレム・デフォーとロバート・パティンソンの鬼気迫る演技に注目!
【写真を見る】ほぼ2人芝居!怪優、ウィレム・デフォーとロバート・パティンソンの鬼気迫る演技に注目![c]2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

そして、現在公開中のロバート・エガース監督作品『ライトハウス』は、観る者を19世紀末の米ニューイングランド沖、絶海の孤島にそびえ立つ“灯台”へと誘う。年老いた灯台守とその若き助手がたどる破滅的な運命を、デジタルフォーマットではなく、35ミリのざらついた触感のモノクロフィルムで映像化した。

35ミリのざらついた質感のモノクロフィルムで撮影された
35ミリのざらついた質感のモノクロフィルムで撮影された[c]2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

モノクロ特有の非日常性が最大限に発揮されたそのビジュアルが、現実と悪夢の境界を見失っていく登場人物の異常心理を生々しく表現。さらに、正方形に近いスタンダードサイズのアスペクト比を採用したことで、らせん階段がある灯台内の異様な閉塞感と縦長の構造が強調されている。

周囲を海に囲まれた孤島の灯台を舞台に、2人の男がしだいに狂っていく…
周囲を海に囲まれた孤島の灯台を舞台に、2人の男がしだいに狂っていく…[c]2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

本作にはグロテスク&エロティックな描写もふんだんに盛り込まれているが、色彩がないため直接的な嫌悪感が薄まり、観客それぞれの主体的な“想像力”のフィルターを通して、極限の狂気や妄想が渦巻く映像世界に耽溺することができる。撮影監督のジェアリン・ブラシュケはアカデミー賞撮影賞にノミネートされた。

ロバート・エガース監督の『ライトハウス』は公開中
ロバート・エガース監督の『ライトハウス』は公開中[c]2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

VFXを駆使したカラフルでスタイリッシュな映像作品があふれかえるいまの時代において、シンプルかつ深みを湛えたモノクロへの回帰はむしろ新鮮に映る。モノクロの美学への並々ならぬこだわりが全編にみなぎる『ライトハウス』は、まさしく現代に現れた本格的な“古典”というべき怪奇幻想譚。ぜひとも、その光と影の魔力にどっぷり浸ってほしい。

文/高橋諭治

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