“コロナの女王”岡田晴恵教授が『鹿の王』に感じたコロナ禍とのリンク…「模索する姿勢こそが、ウイルス学や感染症学の研究者の本質的なもの」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
“コロナの女王”岡田晴恵教授が『鹿の王』に感じたコロナ禍とのリンク…「模索する姿勢こそが、ウイルス学や感染症学の研究者の本質的なもの」

インタビュー

“コロナの女王”岡田晴恵教授が『鹿の王』に感じたコロナ禍とのリンク…「模索する姿勢こそが、ウイルス学や感染症学の研究者の本質的なもの」

2つの国の争いと世界を侵食する謎の病に翻弄される人々の過酷な運命を描く壮大な医療冒険ファンタジー『鹿の王 ユナと約束の旅』(2月4日公開)。「守り人」シリーズなどで知られる作家、上橋菜穂子が、人間の身体、免疫や細菌に対する興味を持ったことをきっかけに描いたベストセラー小説が、アニメーション映画となってスクリーンに登場する。声の出演には、主人公の孤独な戦士ヴァン役に堤真一、もう一人の主人公である若き天才医師ホッサル役に竹内涼真、ミステリアスな女戦士サエ役に杏など豪華キャストがそろった。

2つの国の争いと謎の病に翻弄される人々の過酷な運命を描く『鹿の王 ユナと約束の旅』
2つの国の争いと謎の病に翻弄される人々の過酷な運命を描く『鹿の王 ユナと約束の旅』[c]2021「鹿の王」製作委員会

かつてツオル帝国は圧倒的な力でアカファ王国に侵攻したが、突如発生した謎の病、黒狼熱(ミッツァル)によって撤退を余儀なくされた。以降、2国は緩やかな併合関係を保っていたものの、アカファ王国はウイルスを身体に宿す山犬を使って、ミッツァルを再び大量発生させることで反乱を企てていた。ミッツァルが国中で猛威を振るうなか、山犬の襲撃を生き延びたヴァンは、身寄りのない少女ユナと旅に出る。それぞれの思惑でヴァンの行方を追うホッサルとサエ、彼らの運命が交錯する。

原作は、医療や医療制度に対する国民の理解と共感を深める目的で創設された“日本医療小説大賞”を受賞。感染症の問題や、病む人と治そうとする人との間にある医療の姿を描いた本作を、世界中が新型コロナウイルス感染症の拡大に見舞われているいま、観ることの意味とは?感染免疫学やウイルス学を専門とする医学博士であり、感染症対策の専門家として、各メディアで情報を発信し続けている、白鷗大学の岡田晴恵教授に映画の感想や見どころについて聞いた。

感染症対策の専門家として、各メディアで情報を発信し続けている、白鷗大学の岡田晴恵教授
感染症対策の専門家として、各メディアで情報を発信し続けている、白鷗大学の岡田晴恵教授

「パンデミックの時だからこそ、感染症をテーマにした物語が、より強く胸に響きました」

――映画をご覧になった感想はいかがでしたか?

「きっと私だけじゃなく、本作をご覧になる方々が、自分たちのいまの状況を重ねてしまうと思います。平時であれば、イマジネーションで観るところを、まさに自分事として感じながら観るというか。パンデミックの時だからこそ、感染症をテーマにした物語が、より強く胸に響きました」

――映画のなかで、特に印象に残っているシーンはありますか?

「私が一番心を打たれたのは、ホッサルが『それが運命に思えようとも、(病に)抗って、もがくことが、生きるということじゃないのか!?』というシーンですね。必死に抗いながら、一縷の望みにすがってでも人々を救おうとする強い意志。そこに深く共鳴しました。完全な治療法はないなかで、それを模索する姿勢がよかったです。この精神こそが、ウイルス学や感染症学の研究者の本質的なものだと思います」

謎の病ミッツァルの治療法を探し求める若き天才医師ホッサル
謎の病ミッツァルの治療法を探し求める若き天才医師ホッサル[c]2021「鹿の王」製作委員会

「血清療法を開発していた時の北里先生自身も、ホッサルと同じような気持ちだったと思います」

――「ミッツアルとの闘いに打ち勝ったヴァンの血は、病と闘ううえで強力な武器になる」と言うホッサルが、ヴァンの血液を用いて、患者の治療にあたるシーンをどうご覧になりましたか?

「あのシーンは19世紀に北里柴三郎先生がドイツのロベルト・コッホ教授の下で、破傷風菌のトキソイドに対して開発した“血清療法”なんです。病原体に対して生体内で作り出された“血清”を注射して、感染症の治療を行う方法です。現在の新型コロナウイルスの抗体カクテル療法も原理的理論は同様で、重症化の阻止に使われています。血清療法を開発していた時の北里先生自身も、本作のホッサルと同じような気持ちだったと思います」

――劇中で、ミッツアルは、ウイルスを身体に宿す山犬に噛まれることで感染するという設定になっていました。

「山犬に噛まれると致死的になる感染症として、狂犬病のレービスウイルスを想起させられました。人類史上初めての人の狂犬病ワクチンを開発したフランスのルイ・パスツールも、やはり同じように『どうにかしなければいけない!』という気持ちだったでしょう。世界初の抗生物質、ペニシリンを研究したイギリスのアレクサンダー・フレミングたちもそう。みんなに同じメンタリティが脈々と流れていて、それがこの作品では受け継がれている」

ミッツァルのウイルスを身体に宿す山犬たち
ミッツァルのウイルスを身体に宿す山犬たち[c]2021「鹿の王」製作委員会

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