『3月のライオン』の高橋一生と大友啓史監督が語る映画とドラマの違い|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『3月のライオン』の高橋一生と大友啓史監督が語る映画とドラマの違い

インタビュー

『3月のライオン』の高橋一生と大友啓史監督が語る映画とドラマの違い

内面からにじみ出るセクシーオーラで大ブレイクした実力派俳優、高橋一生。

羽海野チカの人気コミックを実写映画化した『3月のライオン』(前編公開中、後編は4月22日公開)では、神木隆之介演じる若き棋士・桐山零を絶妙な距離感でサポートする教師・林田高志を軽やかに演じている。

本作のメガホンをとった大友啓史監督と高橋を直撃し、充実した時間だったという撮影現場について話を聞いた。

『3月のライオン』は、17歳の孤独な青年棋士・桐山零(神木隆之介)が、明るく前向きに生きる3姉妹と出会い、将棋を通して成長していく物語。

大友監督は高橋について「細かいグラデーションが表現できる俳優」と称え、林田先生役にキャスティングした。

「林田先生の役柄は緩急でいえば“緩”の役どころで、将棋をバシバシ指している孤独な青年を緩く励ましていくんです。でも教育者だから無責任なことを生徒に言ってはいけないし、生徒に寄り添う形で的確な距離感を取らないといけない。その微妙な押し引きが現場で見られたから、そこは演出していて楽しかったです」。

高橋も距離感に気をつけて演じたと明かす。「林田先生は距離を近づけていく方法を感覚としてわかっている人間だと思います。神木さんとのキャッチボールのようなお芝居を、大友さんが納得されるまで何度もくり返して、本当に幸せな時間でした」。

高橋がある映画俳優と交わしたという、ドラマと映画の根本的な違いについての話が興味深い。

「“奇跡を作らなければいけないこと”と、“奇跡を待てること”の違いだと思います。ドラマでは限られた時間のなかで奇跡を作るということが大事。ひねり出して生まれるものもきっとあるはずです。映画では奇跡を待つという緩やかな流れでその瞬間を切り取っていく。今回、撮影自体は短い期間でしたが、大友さんの懐のなかでゆっくりと楽しく過ごさせてもらったことが印象に残っています」。

大友監督は映画を撮ることの醍醐味について「目の奥に表情が出ること」だと指摘する。

「以前香川京子さんのような昭和の大女優の方々から話を聞いたんですが、昭和の監督は『カメラの前では余計なことをしなくてもいい。“大映し(アップ)“で撮るから』とおっしゃられていたそうで。極論を言えば、高倉健さんだと思うんです。余計なことをしなくても、背負っているものすら映し出してくれる容量が映画のフレームにはある。だから今回、いかに何もしないかが、一つのテーマではありました。将棋の世界を撮る上で、そこに人がいて、感情が動けばそれが映画になる。作為と不作為の境界がどこにあるのかを探っていくのがこの作品の面白いところかな」。

これを受けた高橋は心から感激。

「僕もそのことをずっと考えてきました。説明などを全部省き、いかに居住まいだけでいられるのか。宮本武蔵の五輪書でいえば“無刀”のことで、刀をいかに捨てられるかということです。30歳を超えたあたりから、演技をいかに捨てられるかということを考えるようになりました」。

現在、大河ドラマ『おんな城主 直虎』に出演中の高橋だが、常に現場に馴染むことを心がけているそうだ。

「少しでも長く(演じる)小野政次として現場にいるようにしています。いままではテクニカルなところを考えてきたけれど、いまはもうそれらを捨てたくて仕方がない。大きな賭けなのかもしれないけれど、自分の素体だけでその場所にいて、共演者のみなさんとの時間を共有したいんです。今回の『3月のライオン』の現場でもそうでしたし、大友監督がそれを許してくれました」。

大友監督も「今作で高橋さんが魅せてくれたのは、神木くんとのある意味非常にわかりやすい掛け合いのシーンでしたが、次は孤独をまとった人や、何もしないでいる姿を撮りたいと思わせてくれました」と高橋に惚れ込んだ様子。

「そんなことを言ってくださるなんて、本当にゾクゾクします」と嬉しそうに笑みを浮かべた高橋。2人は最後にまた別の作品でタッグを組むことを誓い合った。【取材・文/山崎伸子】

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