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トランプ政権でタイムリーすぎる映画に!『ノー・エスケープ 自由への国境』を監督が語る!

インタビュー

トランプ政権でタイムリーすぎる映画に!『ノー・エスケープ 自由への国境』を監督が語る!

メキシコからアメリカへの不法入国を試みる人間に、謎の襲撃者が引き金を引く!映画『ノー・エスケープ 自由への国境』(5月5日公開)は、トランプ政権で移民問題に揺れるいま、皮肉にも実にタイムリーな映画となってしまった。メガホンをとったホナス・キュアロン監督にインタビューし、構想8年を費やした本作への思いを聞いた。

『ゼロ・グラビティ』(13)では、父親のアルフォンソ・キュアロン監督と共に共同脚本を手掛けたホナス・キュアロン監督。商業映画デビュー作となった本作は、それよりも前から温めていた企画だ。ホナス・キュアロン監督は「正直、こんなにタイムリーな映画にならなければ良かったのに、というのが素直な気持ちです」と苦笑い。

「僕がこの物語の脚本を書き始めた当時、これは単なる寓話だと捉えていた。社会に対し、こういうことは絶対にやめようねというメッセージになればいいと思ったんだ。というか、むしろこんなにトンチンカンな話は現実にないでしょ?と批判されるんじゃないかと心配していたくらいだ。ところが残念ながらトランプ大統領がヘイトスピーチをして当選してしまい、いまに至るというわけだ」。

不法入国しようとする主人公モイセスを『天国の口、終りの楽園。』(01)や『バベル』(06)のガエル・ガルシア・ベルナルが、襲撃者サムを、海外ドラマ「ウォーキング・デッド」シリーズのジェフリー・ディーン・モーガンが演じた。砂漠で繰り広げられる緊迫感あふれる極限のサバイバル劇には思わず固唾を呑む。

「いちばん怖いのがヘイトな考えを正当化することだ。今回ガエルとふたりで、そのことをよく話し合ったよ。サムのようなおかしい人が本当に銃を撃ってしまう事態になったら実に怖いよねと」。

モイセスが国境を越えようとする理由は、息子に会いにいくためだ。彼が幼い息子から託されたしゃべるぬいぐるみの「愛しているよ」という言葉が、彼の父性を物語る。「正式にキャスティングする前から、これはガエルといっしょにやりたいと思っていた。移民は通常、悪役として描かれがちだけど、そうなってほしくなかったので。ガエルは目がとても魅力的で共感を誘うから、絶対に彼を起用したいと思った。

それにガエルは移民問題について熟知している。これまでに移民を扱った昨品に出演したり、ドキュメンタリーを監督したりしているし、本作でもエグゼクティブ・プロデューサーを務めてくれた。彼といっしょに仕事ができて僕はラッキーだったよ。彼はモイセスというキャラクターにもすごく親近感を感じてくれたし、共演者たちにもいろいろな話をしてくれたのですごく助かったね」。

狙撃者としての凄みを見せるジェフリー・ディーン・モーガンだが、唯一犬に対しては深い愛情を見せる。「サムを典型的な悪役としては描きたくなかった」という監督。

「サムのごく普通の人間性を描きたかった。彼がどういうバックグラウンドをもつ人間なのかを伝えたかったけど、台詞を最小限に絞った映画なのでそこはかなり難しかったよ。それで観る人が少しでも共感を誘う人物にするために、犬との関係性を描くことにした。犬は不法入国者にとっては緊張感をもたらす怖い存在だけど、サムにとっては唯一深い絆を感じている対象物なんだ」。

サムのキャラクターについては、他にもいろんな思いを込めたそうだ。「いまのアメリカは世界で一番権力をもつ豊かな国であるはずなのに、サム自身は社会の片隅に追いやられている。本作ではモイセスも含め、社会的にも経済的にも苦境に立たされた人たちが、なぜこういう状況になってしまったのかを考えるわけだ。私は政治家たちが、移民そのものをスケープゴートにすること自体が問題だと思っている」。

本作のプロデューサーとして、父親のアルフォンソ・キュアロン監督と叔父のカルロス・キュアロンが名を連ねている。「僕が映画作りに関わってきた15年間、父や叔父からいろんなことを教わってきたよ。言ってみれば、人生を通してずっとつき合ってくれているふたりだから。

父については、映画監督としてもすごく尊敬している。『ゼロ・グラビティ』を観た時、僕もこういうふうに映画を撮りたいと思った。父はいわば完璧主義者だ。とにかく細部にものすごいこだわりをもち、全力投球で映画作りをしているから」。

そういうホナス・キュアロン監督も、偉大なる父親の情熱を受け継いでいることは、『ノー・エスケープ 自由への国境』を観ればうなずける。

本作は第40回トロント国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞し、各国の映画祭にも招かれ、第89回アカデミー賞外国語映画賞メキシコ代表作にも選出された。世界情勢が大いに揺れているいまだからこそ、多くの人に本作を観てほしい。【取材・文/山崎伸子】

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