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松山ケンイチが語る、田舎暮しで見つけた幸せ「手をかけると、 “喜び”が味にプラスされる」

インタビュー

松山ケンイチが語る、田舎暮しで見つけた幸せ「手をかけると、 “喜び”が味にプラスされる」

「苦悩を吐露するシーンは、あえて台詞を覚えずに挑みました」

【写真を見る】松山ケンイチ、37歳の“いま”を撮り下ろし!
【写真を見る】松山ケンイチ、37歳の“いま”を撮り下ろし!撮影/垂水佳菜

松山が余計なものを削ぎ落として挑んだ山田役。クライマックスで抱えている苦悩を吐露するシーンは、観る者の心を鷲づかみにする。

同シーンについて松山は「感情的になるのはそこだけだったので、きっと大事なシーンになるんだろうなと思っていました。でも、僕はこの作品のために野菜作りもしたし、田舎暮らしもしてきたので、このシーンも作り込まずに臨もうとしました。だから、台詞もほとんど覚えずに行ったんです。荻上さんに怒られるかなと思いつつ、自分のなかからなにが出てくるかなと思いながらやってみました」。

その結果は、スクリーンを観て確認してほしいところだが、松山も「完成した作品での演技を観た時は、『どうなんだろうな』と思ったので、そこはお客さんに判断してもらうしかないです」と観客に解釈をゆだねる。


いきなり「風呂を貸してほしい」と自分の部屋に上がり込む、アグレッシブな島田
いきなり「風呂を貸してほしい」と自分の部屋に上がり込む、アグレッシブな島田[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

そして、食べるシーンがとても重要な本作。一人で部屋にいる時の山田は、暗くて生気がないが、ムロ演じる隣人の島田が畑で作ったきゅうりやトマトをかじるシーンや、島田と炊きたてのご飯を食べるシーンを見ると、食べ物から生きるパワーを得ていることがうかがえる。これらのシーンでは、荻上監督から何度かダメ出しをされたとか。

「米はきちんときれいに研いでくださいとか、ご飯をもうちょっと盛ってくださいと言われました」と苦笑する松山。「山田がビールを飲む時も、荻上さんから『久しぶりにビールを飲むんですよ。もっと美味しいと思うんじゃないですか?』と言われました。食べるシーンについては、僕にもムロさんにも本当に厳しかった気がします。監督から『それだと、旨いんだかまずいんだか分かんないです』と言われたりして(笑)。そのこだわりもおもしろいなと思いました」。

山田は亡き父親について島田に語るなど、心を開いていく
山田は亡き父親について島田に語るなど、心を開いていく[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

山田が勤務先で瓶詰めした、富山名物である塩辛の「黒作り」をあつあつご飯にのせて食べるシーンも実においしそうだ。塩辛について松山は「食わず嫌いでしたが、美味しかったです。やっぱり一から自分で育てた野菜や、自分で釣った魚は、スーパーでお金を出して買うものとは全然違っていて、美味しいなと思いますし。それは実際にやったことのある人にしかわからない感覚で、なにかしら自分が手をかけたものには、 喜びが味にプラスされる気がします」とうれしそうに語る。その言葉からは、実際に田舎で野菜などを作っているからこその説得力を感じさせる。

「迷った時はできるだけ“やる”方向に。そうでないと新しいことは起きない」

松山が感じている、人間関係への想いが役柄に反映されている
松山が感じている、人間関係への想いが役柄に反映されている撮影/垂水佳菜

島田と山田のユーモラスな掛け合いも魅力の本作。松山は島田について、「島田のような人に突然家に上がられて 『風呂を貸して』と言われたら、やっぱり誰だって嫌だなと感じると思いますが、逆に島田の立場からすれば、結構勇気がいる行為だなと思うんです。だって、知らない人の家で風呂に入るってことで、そこでなにをされるのか分かんないでしょ。でも、僕はそのくだりがすごく好きです」と笑う。

「そこで、はたして自分だったら島田みたいな行動ができるだろうか?と考えてしまう。僕自身は、勇気を出して扉をたたくと、意外に相手のほうが心を開いてくれるんじゃないかとも思っています。だから僕もそうやって飛び込んでみることをすごく大事にしていますし、迷った時はできるだけやる方向に行きます。そうじゃないとなにも新しいことが起きないですし。子どもと一緒にいる時も、なるべく一緒に飛び込んでみようとしています」。

古いアパート“ハイツムコリッタ”の大家で、未亡人の南(満島ひかり)
古いアパート“ハイツムコリッタ”の大家で、未亡人の南(満島ひかり)[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

「対人関係において、大事なのは2回目以降だと思うんです。島田のすごいところは、きちんときゅうりやトマトを持ってきてくれたところ。彼はちゃんとWin-Winの関係を築いていける人なんです。それがなければ、山田から『やっぱり無理』と思われて、関係を切られたのではないかと」と述懐。

松山自身もそういう人間関係をとても大切にしているそうだ。「僕も人からすごく助けてもらっていて、いつもどうやって返せばいいんだろうと考えています。昔はそんなことを一切思っていなくて、なにかしてもらっても『ありがとうございます』で終わっていた気がします。そこには謙虚さもなかったし、してくれた人の労力も想像できていなかったです。でも、いまは自分もきちんとお返しをすることを心がけています」。

墓石の販売員をしている溝口(吉岡秀隆)と息子の洋一(北村光授)
墓石の販売員をしている溝口(吉岡秀隆)と息子の洋一(北村光授)[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

そうなったきっかけは、田舎と東京との二拠点生活にあるようだ。「都会では簡単で、お金を使って お菓子を手土産に持っていけばいいんです。でも、田舎のコミュニティの範囲では、お菓子を持っていっても『それは食ったことがあるよ』となるし、せっかく作った野菜を持っていっても『それはうちでも育てているから』となります。だから僕、いまは地域の方が育てていない野菜を育てていますし、仕事でいろんなところへ行くので、まだ知られていないようなお菓子を買っていったりします。それぐらいしか僕にはできないけど、きちんとお返しすることって、本当に大事だと思っています」。


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