舞台公演をどう撮り、残し、使っていく?“教育・研究”と“国際交流”をテーマに議論交わす「EPADシンポジウム2022」レポート - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
舞台公演をどう撮り、残し、使っていく?“教育・研究”と“国際交流”をテーマに議論交わす「EPADシンポジウム2022」レポート

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舞台公演をどう撮り、残し、使っていく?“教育・研究”と“国際交流”をテーマに議論交わす「EPADシンポジウム2022」レポート

国際交流の現場から語る多言語配信の意義と国境を超える交流の広がり

第二部のテーマは「国際交流の現場から」。国際交流基金が始めたYouTubeチャンネル「STAGE BEYOND BORDERS」では、日本を代表する舞台作品を7言語字幕付きで無料配信する取り組みを行っていて、EPADはそのうち、演劇・舞踊・伝統芸能など50作品を提供。歌舞伎、落語、能などの伝統芸能だけでなく「刀剣乱舞」といった2.5次元ミュージカルの人気作品も公開され、国内外から好評を得ている。

第二部の登壇者は、京都国際舞台芸術祭KYOTO EXPERIMENTの共同ディレクターである川崎陽子や、国際共同制作作品や海外ツアーなどにおける海外フェスティバルや劇場との渉外業務を担当してきたSPAC-静岡県舞台芸術センター芸術局長の成島洋子のほか、緊急事態舞台芸術ネットワーク/ゴーチ・ブラザーズの伊藤達哉、先日パリ公演を終えたばかりの劇団「贅沢貧乏」制作の堀朝美。モデレーターはEPAD2022の事務局長、三好佐智子が務めた。

コロナ禍となった2020年、2月26日の政府による自粛要請を受け、舞台公演の中止延期が相次ぐなか、舞台のライブ配信や、オンラインでのイベントなどを展開していった実績を、識者たちが振り返りつつ、意見を交わし合った。三好は最初にEPADについて「アーカイブしたものを未来に継承することと、配信をしたいのであれば、こういう条件が必要です、というところをお手伝いしてきました。今年度からはドキュメンタリー映像も収集しています」と紹介。

【写真を見る】「ミュージカル『刀剣乱舞』 髭切膝丸 双騎出陣 2020 ~SOGA~」も配信で楽しめる!
【写真を見る】「ミュージカル『刀剣乱舞』 髭切膝丸 双騎出陣 2020 ~SOGA~」も配信で楽しめる![c]ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

続いてEPADの実行委員である伊藤が、日本の優れた舞台公演作品を海外に向けてオンライン配信するプロジェクト「STAGE BEYOND BORDERS」の現状を報告。「最大7言語つけた舞台映像を111か国で視聴できています。主要なところだと『贅沢貧乏』さんが12万再生、『刀剣乱舞』さんが119万再生、『ままごと』さんが26万再生といった数字を上げてくれていて、現在50作品でおよそ累計1000万再生を突破しています」。

伊藤は舞台芸術を映像に残すことについて「舞台演劇に携わるものとしては、演劇自体が消えゆく美学というか、消えゆくことを誇りにしているところがあります。でも、そこを粘り強く話を続けてきたなという2年半でした」と振り返り、「無料で多くの人に見せてしまうと、劇場に来る人が減るのではないかという懸念もありましたが、この2年半の経験で、それはむしろ逆であることが実証されました。海外でもそうだったと聞いていて、このマインドチェンジは大きかったです。また、映像の最大のメリットは、時間と空間を超えること。過去から未来へ、そして地域を超え、海外へ広がること。さらに障がいのある方や劇場に来れない方へも届くこと」と映像配信ならではの利点も強調した。

専用の劇場や稽古場を拠点に、専属の俳優、専門技術スタッフが活動を行なうという文化事業集団「SPAC-静岡県舞台芸術センター」で芸術局長を務める成島は、「コロナ禍を経て、リアルで集まるための映像の利用が大切になりました。上演場所も含め、唯一無二のものは撮影をしておき、映像権利を活用できるようにしておくことがとても大事だと実感しました」と語った。

第二部は演劇研究者や劇団「贅沢貧乏」制作の堀らが「国際交流の現場から」をテーマに談義
第二部は演劇研究者や劇団「贅沢貧乏」制作の堀らが「国際交流の現場から」をテーマに談義撮影/菊池友理

京都国際舞台芸術祭KYOTO EXPERIMENTを手掛ける川崎は、舞台映像を撮影するコストについて「上映することと記録することとのバランスのせめぎ合いというか、なにに対してどこまでどういうふうにかけるのかというのが問題です」と言う。「1カメで撮ったものは、見返してみると、おもしろい映像にはなっていなくて。だからフェスティバルの演目についてはカメラ台数を多くし、編集もちゃんとするけど、いろんなところで上演してきた作品は本チャンで頑張って撮るといった、メリハリをつけた記録に変化してきた気がします」。

また、川崎は「コロナ禍を経て、海外とのオンラインでのやりとりはスムーズになりましたし、海外のオンラインイベントへのオファーも増えました」と言うと、皆もうなずく。「STAGE BEYOND BORDERS」についても「ライブ市場主義でしが、使い方によって、いろいろな魅力もあるなと、ここ数年で本当に痛感しました」と語った。

劇団「贅沢貧乏」制作の堀は「10年間で16作品ぐらいの舞台を作ってきましたが、舞台映像を残せて使えた作品は9作品ぐらいです」と言ったあと「撮れたけど残せない4作品」と「撮れず残せずの3作品」について「一軒家を舞台にしたものや、3面客席の東京芸術劇場で上演した作品は、お客様の映り込みがありました。また、2階建ての劇場や野外で上演した作品は、撮れず残せずの3作品です。カメラの設置場所が難しかったり、人手や予算がなかったりして写真しか残っていません」と具体事例を挙げると、全員が興味深く耳を傾けた。

堀はEPADで配信したことの利点について「多言語の字幕付きで配信してもらったので、いろんな国の方に観ていただけたことや、作品やアーティストを知っていただける機会が増え、Twitterなどでお客様が感想をいただけたことがすごくうれしかったです。また、YouTubeを観たあと、大学などから授業で上映したいというお話もいただけましたし、生徒さんと交流する機会も設けていただけました。権利関係や配信契約料もわかりやすかったのでとても助かりました」と喜びを口にした。

三好はこれを受け「アーティストにとっては、彼らを遠くに連れてってくれる作品が1、2本あると、作品がそのカンパニーをも導いてくれるという一つの良い事例だなと思っています」とうなずく。

有意義な熱いトークが交わされた
有意義な熱いトークが交わされた撮影/菊池友理

最後に、これからの舞台映像への期待や豊富をそれぞれが語った。伊藤が「EPADでは8Kを定点で収録し、そのまま上映するということを実験的に行っています。これは営利非営利とともに広がりを見据えています。ぜひそれを一般の視聴者の方にもご覧いただきたいです」とアピール。

堀は「贅沢貧乏は小劇場のカンパニーで、劇場さんやフェスティバルさんとは全然予算規模が違うのですが、EPADさんのおかげで、配信にチャレンジできました。映像を撮るスキルもどんどん溜まっていったし、映像を撮るといろんな場面で活用できると思うので、おすすめです」とEPADの魅力を再度語った。

川崎は「これまでに、映像はたくさんあるけど、置くところがないという問題を抱えていましたが、プラットフォームができたことで、すごく違うなと思っています。クリエーションしているプラットフォームとしての記録もちゃんと残せていけることに、とても意味を感じています」とEPADの意義を強調した。


成島も「プラットフォームに置かれることで、人に観てもらえる機会が増えたのは、本当にありがたかったです。また、今後はドキュメンタリー的な部分をどう残していくのかも課題かと。稽古などのプロセスを公開していくことで、ファンを獲得することもできると思うので、そういったジャンルの動画も残していく価値があると考えると、そういう資料も蓄積されていくのかなと思っています」と語った。

教育者や研究者、現場の制作者たちによる熱いトークが展開されたシンポジウムを通して、舞台芸術を記録し、未来へ受け継いでいくことがいかに有意義なことかも再認識できた。今後のEPAD事業の発展にも大いに期待したい。

取材・文/山崎伸子

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