コラム 2023/3/6 19:30

東出昌大が魂の演技で挑んだ『Winny』から嘘みたいな実話まで、映画で描かれる“天才”たちの劇的な生き様

魂が憑依したかのような名演が光る『聖の青春』

天才とはなにも、偉大な発明をした孤高の人物だけとは限らない。1998年に29歳の若さでこの世を去った天才棋士、村山聖の生涯を描いた『聖の青春』(16)では、波乱に満ちた人生を送りながらも、その人柄から周囲の人々に愛された天才の姿を見ることができる。

当時、「東の羽生、西の村山」とも称された村山聖。幼少期に難病を患い、入院中に父から勧められた将棋に心を奪われた聖は、森信雄に弟子入りするやめきめきと頭角を現し異例のスピードでプロデビュー。同世代のもう1人の天才、羽生善治にライバル心を燃やし、将棋界の最高峰である名人位を獲ることを夢見ながら、自らの命を削って将棋をさし続ける。

松山ケンイチが体重を20キロ増量して村山聖を演じ抜いた『聖の青春』。同作でライバルである羽生善治役を演じたのは、『Winny』で金子勇役を演じている東出昌大だ。東出は金子を演じるにあたって体重を18キロ増量。類まれなる才能を持った人物を説得力をもって演じるためには、その姿形からアプローチし、その魂が憑依したかのように演じることが必要なのかもしれない。天才たちの人生を表現するために全身全霊をかけた演者の努力が、天才を描く映画に深みを与え魅力をさらに高めているといえよう。

【写真を見る】体重を18キロ増量して熱演！苦悩と情熱を体現した東出昌大演じる天才プログラマーの金子勇[c]2023 映画「Winny」製作委員会

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巨匠スピルバーグ監督と名優2人が贈る、嘘みたいな“天才”の物語

最後は、にわかには信じられないような人生を送った天才を描いた作品を紹介しよう。巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督とレオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクスがタッグを組んだ『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)。天才詐欺師フランク・ウィリアム・アバグネイルと、彼を追うFBI捜査官の攻防をユーモラスに描いた傑作だ。

16歳で小切手詐欺を働き味をしめたフランク(ディカプリオ)は、より多くの金を稼ぐために社会的信用のあるパイロットになりすます。世界中を飛び回り悠々自適な生活を送るフランクだったが、その正体を見破ったFBI捜査官のカール(ハンクス)が執念深く追い詰めていく。その後も医師や弁護士になりすまして捜査の網の目を潜るフランクは、ブレンダ(エイミー・アダムス)という看護師と婚約。しかし彼女と約束をした空港には、大勢の捜査員が待ち受けていた…。

これが様々な職業に成り代わって詐欺を働いただけの人物だったら映画で描かれるような人生とは言えない。アバグネイルの驚くべきところは、それぞれの職業に必要な知識や能力を徹底的に学び、しまいには本当に弁護士の資格まで取得してしまうところである。さらに、逮捕され刑務所に入れられてしまうのだが、詐欺に関する腕を買われ、事件の調査の手伝いをすることで刑期を減免される。最終的にはセキュリティ・コンサルタントとしてFBIに助言する立場にまで上り詰めるのだから真の“天才”というものは計り知れない。そして、『Winny』で金子が戦った権力やメディアのなかにも、彼の技術のすばらしさを理解できる者がいたら、全く別の結末を辿っていたかもしれないだろう。

ネットの未来を懸けた裁判の行方とは…[c]2023 映画「Winny」製作委員会

時代や国や環境はもちろんのこと、能力やその使い方も多種多様な天才にまつわる映画を紹介してきたが、いずれの作品にも共通していることは、“事実は小説よりも奇なり”という言葉もあるように常人には理解しがたい部分もありながら、この上なくドラマティックな生き様だということ。時代を変える偉業、天才であるがゆえの苦悩は、映画としてひときわ映える題材であることは間違いない。

そして同時に、自分を貫くことや諦めずに立ち向かっていくことの重要性、周囲の人々とのつながりなど、天才たちの姿を通して教えられることも数えきれない。『Winny』では、国家権力によって潰されてしまったひとりの天才開発者と彼を救おうとする弁護士たちが、開発者の権利と未来を守るために奔走する姿が描かれる。その真実の戦いの記録から、必ずやいまを生き抜くためのヒントや活力を得られることだろう。