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『雄獅少年/ライオン少年』で果たした挑戦と未来を監督が明かす「新鮮味のある中国のアニメーションを提供できればうれしい」

インタビュー

『雄獅少年/ライオン少年』で果たした挑戦と未来を監督が明かす「新鮮味のある中国のアニメーションを提供できればうれしい」

「新鮮味のある中国のアニメーションを提供できれば、とてもうれしい」

1979年生まれのソン監督は、湖北美術学院(主専攻は水彩画)を卒業後、独学でアニメ制作を始めた。動く中華まんを主人公にした3Dアニメーション「美食大冒険」シリーズを手掛け、テレビ版3シーズン、映画1作を監督して高い評価を得るなど、中国で注目を集めるクリエイターとなった。本作では、あらゆる困難を前にくじけそうになったり、涙を流しながらも、必死に立ち上がろうとするチュンの姿が描かれているが、そこにはソン監督自身の想いも投影されていると語る。

懐かしさの感じられる田舎の情景も見どころ
懐かしさの感じられる田舎の情景も見どころ[C]BEIJING SPLENDID CULTURE & ENTERTAINMENT CO.,LTD [C]Tiger Pictures Entertainment. All rights reserved.

「私も故郷を去る時には、チュンが村から出る時と同じようなミニバスに乗りました。故郷を離れる気持ちは、私も経験しています。そして都会に出てからいろいろな挫折を経験し、そんななかで歯を食いしばって頑張ってきたことも一緒。きっと多くのクリエイターが、作品に自己を投影している部分があると思います。私は、そういった投影があったからこそ、作品に生命力を宿すことができたのかなと感じています」と想いを巡らせながら、「作品づくりをしている時も、くじけそうになることがたくさんあります。『まだまだ道が長い』『先が見えない』と思うこともあって、そういった心情もチュンと同じものですね」と苦笑い。

そんな時にソン監督にとって前に進む原動力となっているのが、「使命感」だと力強く語る。「まず本作でつづられる少年の成長物語が、私は大好きです。なんとかこの物語を伝えたいと思いました。そして獅子舞というのは、中国の伝統芸能の一つです。獅子舞について勉強していくにつれて、自国の伝統文化を伝えたいという使命感も生まれました。そういった想いが、最後まで私を支えてくれました」と熱を込める。

監督自身の経験や心情を投影させながら、力強いキャラクターを誕生させた
監督自身の経験や心情を投影させながら、力強いキャラクターを誕生させた[C]BEIJING SPLENDID CULTURE & ENTERTAINMENT CO.,LTD [C]Tiger Pictures Entertainment. All rights reserved.


そしてクリエイターとして影響を受けてきた存在について、ソン監督は「子どもの頃は、上海美術映画製作所の作品をよく観ていました。チュンのような青春期には、大量に日本のアニメを観るようになって。宮崎駿さん、大友克洋さん、今敏さんの作品からはとても影響を受けました。いまでも作品を見返して、たくさん勉強させてもらっています」と告白。今年は、井上雄彦による漫画「SLAM DUNK」を原作としたアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』(公開中)や、新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』(22)が中国でも大ヒットを果たしたが、「私くらいの年頃の中国の人たちにとっても、『SLAM DUNK』は青春なんですよ。漫画もアニメも大好きで、今回の映画にもとても注目をしていました。また新海監督の作品も大好きです。これまでのすべての作品を観ていますし、『言の葉の庭』や『天気の子』は特に好きです。ストーリーの表現の仕方、アニメーションの表現の仕方についても、とても勉強になっています。次回作の準備に追われていてまだ『すずめの戸締まり』を観られていないのですが、必ず観ます!」と大いに刺激を受けている。

日本では、2020年に公開された『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』がヒットを記録するなど、中国産アニメが急成長を遂げている。中国アニメ業界の現場について、ソン監督は「良い作品もどんどん生まれているし、世界的に見ても、興行的に良い成績を収めている作品も多いです。中国のマーケット全体がとても大きいことも、その要因の一つかもしれません」と語り、こう続けた。「中国アニメ業界の同業者たちも、自分のスタイルやオリジナリティを模索しているところです。これまでは日本アニメや、アメリカのアニメが、私たちにたくさんの栄養分を与えてくれました。これからは自分たちならではの要素を打ち出していく必要があると思っています。今回の『雄獅少年/ライオン少年』では、中国の伝統文化に着目して、キャラクターのデザインやストーリーについても、周囲の人たちにとって馴染みのあるものを表現したいと思っていました。そうすることで海外の方々にとっても、新鮮味のある中国のアニメーションを提供できればとてもうれしいです」。

取材・文/成田おり枝

※宮崎駿の崎はたつさき

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