『さらば、わが愛 覇王別姫』やウェス・アンダーソン監督作を彷彿…中国映画界の新たな才能に出会う『椒麻堂会』特別対談 - 3ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『さらば、わが愛 覇王別姫』やウェス・アンダーソン監督作を彷彿…中国映画界の新たな才能に出会う『椒麻堂会』特別対談

インタビュー

『さらば、わが愛 覇王別姫』やウェス・アンダーソン監督作を彷彿…中国映画界の新たな才能に出会う『椒麻堂会』特別対談

「事前に少しでも中国の近現代史の知識を頭に入れておくと、より映画を楽しめると思います」(ヤン)

――『椒麻堂会』で特に印象に残った場面を挙げるならどこでしょう?

ヤン「印象に残ったのは、少年時代に邱福がある夜、師匠と2人の男性と一緒にお酒を飲むシーン。お酒を飲んだあとに“新鮮なキノコのスープ”を飲むと、師匠たちの顔がなぜかパンダとレッサーパンダに変わっています。実は、四川と雲南省の人には、夏になると野生のキノコを食べる習慣があるんです。そして野生のキノコには、一定の確率で幻覚症状のある毒キノコが混ざっている(笑)。つまりあのシーンはキノコの幻覚症状を表現した場面なんですね」

徐「私がおもしろいと思ったのは、糞のシーンです。赤ん坊にタンパク質をとらせるため、邱福と妻が公衆トイレから糞をこっそり取りに行って、糞に湧いた蛆虫を捕まえようとする。すると制服を着た人たちが寄ってきて『これは国の糞だから、あなたたちに持ち帰る資格はない』と言う。文革の時期、大飢饉の時代の不条理さを風刺した場面ですが、私は2021年というコロナ禍真っ只中に本作を観た、この不条理さは現代とも見事に通じ合うなと感じました。そして、おそらくこの映画が中国大陸で一般公開されない理由は、随所に現れるこうした風刺精神にあるような気がしますね」

チュウ・ジョンジョン監督の祖父の実体験が基になっている物語
チュウ・ジョンジョン監督の祖父の実体験が基になっている物語

――中国本国ではいまだに公開されていないんですね。

徐「とはいえ、大陸ではみんなあらゆる手段を使って観ていたので、観客の反応はほかと比べてもかなりよかったと聞いています」

――この映画には、主人公が突然空を飛び始めたり、ファンタジックな場面がたくさん出てきたりしますよね。特に死後の世界の描き方がユニークでしたが、あの描写にはどういう背景があるんでしょうか?

ヤン「死んでしまった主人公が向かう場所として出てくる『丰都(豊都・ほうと) 』は四川省に実在する町の名前ですが、伝説では、鬼=死者が住む町だと言われています。そして誰かが死ぬと、牛の顔と馬の顔をした2人の人物が迎えにきますが、これも古い言い伝えにある地獄の番人たち“牛頭馬面”を表現したもの。劇中では、時代によって、“牛頭馬面”に連れていかれる人たちの姿が巧妙に描き分けられているのにも注目です。“牛頭馬面”に連れられていった死者たちは、冥府の出入り口にある奈何橋(なかきょう)を渡り、忘川河(ぼうせんが)を超えたあと、“孟婆(もうば)”と呼ばれるおばあさんの作ったスープ“孟婆湯”を飲む。すると現世の記憶がすべて消え、来世に向かうことができる。これが中国に伝わる伝統的な死後の世界の考え方です」

この世を去った四川オペラの名優、邱福(チュウ・フー)が冥界へ赴く道すがら過去を振り返る
この世を去った四川オペラの名優、邱福(チュウ・フー)が冥界へ赴く道すがら過去を振り返る

――そういう背景がわかると、余計におもしろく観られますね。

ヤン「国民党の軍師長である劉さんの椅子を巡る描写もおもしろかったです。劉さんはいつも小さな椅子を持って劇団の最前列に座って観劇していたのに、人民解放軍によって劇団が人民川劇団に変わった途端、その椅子が外に放り出されてしまう。彼の権威が失墜したことが、椅子によって端的に表現されているわけです。こうした時代背景が細かい描写で出てくるので、事前に少しでも中国の近現代史の知識を頭に入れておくと、より映画を楽しめると思います」


「他国の映画を観ることで、自分が暮らす国との類似点を再発見できます」(徐)

――最後に、中国の文化や歴史、情報を日本に伝える活動をされているお2人は、文化交流において映画が果たす役割をどのように考えていらっしゃいますか?

ヤン「私のYouTubeチャンネルでも、『中国語を学ぶようになったきっかけは「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来」を観てからです』とか、『ドラマ「陳情令」が好きで勉強を始めました』とおっしゃる視聴者の方は多いですし、映画やドラマは文化交流にとって重要なツールだと思います」

徐「私自身、日本映画を好きになったのがきっかけで日本に来たわけですし、映画が持つ力は本当に大きいと思います。それと『椒麻堂会』では中国に伝わる死後の世界の描写がいろいろと出てきますが、日本の各地にも、同じように死後の世界を巡る色々な伝説がありますよね。他国の映画を観ることで、自分が暮らす国との類似点を再発見できるのも、映画を観る楽しみの一つではないでしょうか」

取材・文/月永理絵


現場からお届け!もっと楽しむ「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」特集【PR】

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023 特集「中国映画の新境地~KATSUBEN Selection~」
『椒麻堂会』

■上映日時
日程:7月20日(木)10:30 
会場:SKIPシティ 映像ホール

■トークイベント(入場無料)
日程:7月20日(木)14:00~
会場:SKIPシティ HDスタジオ
URL:https://www.skipcity-dcf.jp/films/nwcc01.html

■ヤンチャン(本名・楊小溪)
日本で活動する中国四川出身のYouTuber。中華グルメ情報、中国語学習、中国トレンド情報を発信し続けている。在大阪中華人民共和国総領事館広報アドバイザーなども務めた。著書に「33地域の暮らしと文化が丸わかり! 中国大陸大全」。
ヤンチャンCH/楊小溪

■徐昊辰
映画ジャーナリスト。中国上海出身。中国の映画媒体で日本映画の批評と産業分析を発表し、日本の映画媒体で中国映画市場の分析を連載している。映画を語るWEB番組「活弁シネマ倶楽部」のプロデューサーを務めている。2020年から上海国際映画祭プログラミング・アドバイザーに就任。
https://twitter.com/xxhhcc

関連作品