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渋オジの極み、ヴィゴ・モーテンセンファン必読!D・クローネンバーグが昇華させた名優を深掘り

コラム

渋オジの極み、ヴィゴ・モーテンセンファン必読!D・クローネンバーグが昇華させた名優を深掘り

アーティストとしての在り方がリンクする『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

そんな2人の新たなコラボレートが『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』で、進行し続ける環境破壊に適応するように、人類が“痛み”を生物構造的な変容によって克服した近未来が舞台の“アート・サスペンス”。モーテンセンは“加速進化症候群”のアーティスト、ソール・テンサーを演じており、その体内では新たな臓器が日々生みだされている。新たな臓器はパートナーのカプリース(レア・セドゥ)によって公開手術で切除され、その過激なパフォーマンスが人々の熱狂を集めている。一方、そのような状況を各国政府は危険視しており、人類が誤った進化をしないように監視体制を強めていた。そこへ、生前にプラスチックを食べていた少年の遺体を公開手術で解剖し、体内を公にさらしてほしいという依頼がソールのもとに舞い込む…。

ソールとカプリースのパフォーマンスは人々の熱狂を集めている(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)
ソールとカプリースのパフォーマンスは人々の熱狂を集めている(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)[c]2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c]Serendipity Point Films 2021

進化と退化、切り刻まれる肉体などなど…。モーテンセンが出演してきた過去3作と比べると、よりクローネンバーグの作家性の原点に近いものに感じられる本作。これまでは登場人物たちの内面を繊細に表現してきたが、今回は身体機能の変化によって体が思うように動かないソールのつらさ、苦しさを声色やしゃべり方を工夫しながらSF的な設定を自然な形で体現している。

ソールは体内で新たな臓器を生みだすことができる(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)
ソールは体内で新たな臓器を生みだすことができる(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)[c]2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c]Serendipity Point Films 2021

また劇中には、アーティストであるソールが悶えながら新しい臓器を生みだし、能力を失うことを不安視しているような描写も。そして、政府によって彼のパフォーマンスが監視され、一方で反体制的な活動にも用いられようとしている。芸術を生業とする人たち、芸術そのものの在り方について問う作品としても捉えることができ、その狭間に立つソールは、創作活動を探求してきたモーテンセン自身とも大きく重なるキャラクターなのかもしれない。

モーテンセンが演じる“加速進化症候群”のアーティスト、ソール・テンサー(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)
モーテンセンが演じる“加速進化症候群”のアーティスト、ソール・テンサー(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)[c]2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c]Serendipity Point Films 2021

モーテンセンが語るクローネンバーグへの信頼と友情

クローネンバーグについてモーテンセンはインタビューで、「長年の信頼関係があり、友人です。おもしろいと思うものも同じで、本作の脚本を読んだ時も笑いました」と語っている。やはり両者には強いつながりがあり、だからこそ、役や表現方法についても全力で模索することができるのだろう。


互いに強い信頼を抱いているデヴィッド・クローネンバーグとヴィゴ・モーテンセン(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)
互いに強い信頼を抱いているデヴィッド・クローネンバーグとヴィゴ・モーテンセン(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)[c]2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c]Serendipity Point Films 2021

今後のヴィゴ・モーテンセンの待機作には、『約束の地』のリサンドロ・アロンソ監督と再び組んだ『Eureka』や監督2作目となる西部劇『The Dead Don't Hurt』がある。『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』を経た彼がいったいどのような進化と深化を見せるのか?その活躍からますます目が離せない!

文/平尾嘉浩

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