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神田伯山が語った“挑み続けた男、アントニオ猪木”の生き様「最後の最後までアントニオ猪木のままでいた」

インタビュー

神田伯山が語った“挑み続けた男、アントニオ猪木”の生き様「最後の最後までアントニオ猪木のままでいた」

「プロレスは時代を反映するものだと思っています」

【写真を見る】まさに圧巻!神田伯山が映画のために書き下ろした講談、アントニオ猪木VSマサ斎藤の“巌流島の戦い”を披露
【写真を見る】まさに圧巻!神田伯山が映画のために書き下ろした講談、アントニオ猪木VSマサ斎藤の“巌流島の戦い”を披露[c]2023「アントニオ猪木をさがして」製作委員会

作中で披露された講談、“巌流島の戦い”は、オファー時には予定されていなかった。「講談は作るのも覚えるのもめんどくさいから、本来ならやりたくないんです(笑)。でも、猪木さんの映画だし、僕が手を抜くなんてことはあり得ない。追悼の映画でもあるから全力で、120%でやらせていただきました。講談が好きな人も苦手な人もいるかもしれませんが、僕自身はやってよかったと満足しています」とやりきった様子。「撮影は巌流島で行いましたが、雨が降ったら終わり、の状況なのに梅雨の時期の撮影で。毎日雨ばかりが続くなか、撮影当日の昼ごろから晴れてきました。ただし撮影できるのは日没まで、無制限一本勝負ではなく(笑)。船の音が消えるのを待ったり、かがり火が一箇所燃えていなかったり、僕の襟が乱れていたり、言葉が出なくなったりなど、いろいろな“待ち”はありましたが、なんとか撮り切ることができました。カメラマンさんが『暗くて撮れないぞ!』って、まさにアントニオ猪木VSマサ斎藤の試合で響きわたったような言葉を発したりして。目に見えない猪木さんのパワーもどこかに感じつつ、運もよかったなと思っています」と、特別な場所での撮影の様子を振り返った。

映画では、棚橋弘至選手が自ら外した猪木のパネルを元に戻すシーンも
映画では、棚橋弘至選手が自ら外した猪木のパネルを元に戻すシーンも[c]2023「アントニオ猪木をさがして」製作委員会

本作で印象に残ったのは、棚橋弘至が猪木のパネルを戻すシーンだという。20年前に新日本の道場に掲げてあった猪木のパネルを外した棚橋本人が、そのパネルを元に戻したのだ。「いろいろな意見が出ると思います。僕自身は神のような存在である猪木さんのパネルを、とったり外したりしていいものだろうか、と正直思いました。物凄い決意で、あの当時とるのはまだ理解出来るのですが、しかし今のタイミングで戻すのかと。でも、戻すという決断をする、戻すという行為を実行する権利があるのは棚橋さんだとも思っています。僕は棚橋さんも大好きですから。この時に思ったのは、パネル一つをとっても、いちいち感情が揺さぶられるという現象です。本来はどうでもいいものじゃないですか。だって僕はいちファンなだけで、道場に入ることもないから、お目にかかる機会もないわけで。道場でひと汗もかいていない俺たちが、パネル一つに対してもいちいち『あれ?』と思い、意見を言う。その現象は結局、“猪木さんが好き”に帰結します。やっぱり猪木さんの存在って特別だと痛感しますよね」と熱弁。

オカダ・カズチカ選手のナチュラルな出方に好感を持ったそう
オカダ・カズチカ選手のナチュラルな出方に好感を持ったそう[c]2023「アントニオ猪木をさがして」製作委員会

さらに、ドキュメンタリー映画ならではの「出方」にも触れる。本作には様々な立場、世代のアントニオ猪木の関係者たちが証言者として出演しているが、「海野(翔太)さんからはいまどきというのか、新世代感が出ていたし、オカダ(・カズチカ)さんもすごくナチュラルでしたよね。映画のタイトルに対する答えの出し方も、すごく好感を持ちました。有田(哲平)さん、安田(顕)さん、写真家の原(悦生)さんも、自分の出方をしていたように感じました。誰の出方が正解、間違いとかではなく、猪木さんに対する追悼の形として自分をどう出すか、どう見せるかもいろいろと楽しめました」。


伯山も猪木から多大な影響を受けた一人だ
伯山も猪木から多大な影響を受けた一人だ撮影/黒羽政士

プロレスファンとして、いまのプロレス業界に思うことはあるのだろうか。「プロレスは時代を反映するものだと思っています。猪木さんは、日本自体がダイナミックに動いていた時代を生きたプロレスラー。猪木さんの生き様と時代がシンクロしていました。令和になったいま、日本はあまり元気がありません。弱っているからこそ、プロレスで盛り上がりたいです。偉大な猪木さんや先人のレスラー達はあまたいるでしょうが、いまが一番最高なんだ。現役レスラーこそが一番だろという主張を勝手に託して、勝手に期待しています。プロレスは過去も最高だが、やっぱりいまなんだと思える瞬間に立ち会えるのを楽しみに、生のプロレスを観戦しにいきます」。

取材・文/ タナカシノブ