トラン・アン・ユンがTIFFで自身の映画哲学を語り尽くす!「官能的な感情を映画で表現したい」 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
トラン・アン・ユンがTIFFで自身の映画哲学を語り尽くす!「官能的な感情を映画で表現したい」

イベント

トラン・アン・ユンがTIFFで自身の映画哲学を語り尽くす!「官能的な感情を映画で表現したい」

ジュリエット・ビノシュら豪華キャスト陣の起用の決め手とは?

「ウージェニー役のジュリエット・ビノシュは昔からよく知っております。私と彼女のエージェントが同じ人で、この作品のプロジェクトが動き出そうとしている時から一緒にやろうと約束をしていました。対してドダン役のブノワ・マジメルはもっと後になってこのプロジェクトに合流しました。

2人はかつて結婚していた時代があり、離婚してから20年もの間一度も共演することはありませんでした。私がブノワを起用したいと提案したところ、ジュリエットはブノワが引き受けてくれないのではないかと不安がっていました。しかし彼は、オファーを快諾してくれました。

『ポトフ 美食家と料理人』は12月15日(金)より日本公開
『ポトフ 美食家と料理人』は12月15日(金)より日本公開[c]2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA

撮影現場は意外なほどに良い雰囲気が流れていました。劇中のとあるシーンで、ウージェニーがドダンにキスをするシーンがあります。実はそんなことはシナリオには書かれていませんでした。私がカットをかけた瞬間、ブノワは私のほうに走ってきて『君が指示したのか?』と。私はこう答えました。『していません。きっと役になりきった彼女がキスしたいと思ったのではないでしょうかと』。

そんなブノワも私が書いていなかったことをやっていました。それは重要なラストシーンなので詳細は伏せますが、シナリオに書いてあったことと正反対のことを彼は言いました。彼は私にこう言ったんです。『彼女の目を見ていたら、つい言ってしまったんだ』と。

また、ボニー・シャニョー=ラヴォワール演じるポーリーヌがこの作品のなかで体現しているのは、調理の技というものの継承です。彼女はオーディションで選ばれたのですが、そこで私たちが大事にしていたのは、彼女がどのように食べ物を食べるのか、その口の動きでした。映画を観ている人が美味しそうに感じる食べ方をするキャストを見つけるのはとても難しいことでした。

ポーリーヌがソースに使われている素材を当てるシーンは表現が難しかったですが、彼女の無垢な部分がとてもよく出ており、同時になにが美味しいのかをすでに理解している、発達した少女であることを表現する必要がありました。そして彼女の存在は、映画の後半、生きる気力を失ったドダンが失意のどん底から一歩を踏み出すきっかけとなるのです」

妻トラン・ヌー・イェン・ケーとの仕事、映画的な“美しさ”の原点に触れる

撮影時の裏話など、最新作『ポトフ 美食家と料理人』について語る
撮影時の裏話など、最新作『ポトフ 美食家と料理人』について語る

「やはりこの映画には私のプライベートな部分も反映されています。妻であるトラン・ヌー・イェン・ケーはすばらしい観察眼の持ち主で、撮影の際には即座に良し悪しを判断できる彼女の才能にとても助けられました。

アートディレクターとして衣装づくりを担当してくれた彼女は、映画の撮影が始まると私の隣で一緒にモニターを見ます。私がカットをかけて役者やカメラマンと話している時、彼女は画面上のうまくいっていない部分をすぐに見つけ、修正してくれます。彼女は画面に映る物のふさわしい存在の仕方を常にキャッチし、的確な美術や衣装を作っていることで、この映画の美しさが生まれました。そういった意味で、私と妻は劇中のドダンとウージェニーの関係によく似ているかもしれません。

彼女との関係は『青いパパイヤの香り』の時から進化しています(※トラン・ヌー・イェン・ケーは女優として『青いパパイヤの香り』で主演を務め、『シクロ』『夏至』『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』にも出演している)。先日もホーチミンで彼女の絵や彫刻を展示する個展が開かれましたが、彼女が制作をするときは、私はアシスタントになります。

この映画の劇中でドダンが引用する中国の詩人の言葉の通り、一年間を自分のために費やしたら翌年は妻のために一年間を捧げる。それを交代交代でできたらいいなと思っています。ちなみに彼女が私の作品に参加するときはギャラが支払われますが、私はノーギャラでアシスタントをしています(笑)。

妻トラン・ヌー・イェン・ケーへの深い愛情ものぞかせる
妻トラン・ヌー・イェン・ケーへの深い愛情ものぞかせる

もうひとつのプライベートな部分として、私は台所が大好きなんです。それは子どもの頃に母が料理をしていた記憶によるものです。両親は服飾の仕事をしていて、生活環境も近隣の環境も決して美しいものではありませんでした。それでも唯一美しいと思えた場所が家の台所でした。


母が市場から材料を買って帰ってくると、土間のようになった床が濡れて光っていた。その頃に私の美的感覚が生まれ、発展していきました。前作の『エタニティ 永遠の花たちへ』でも料理のシーンを書きましたが、この時は資金不足で残念ながら実現には至りませんでした」

映画の力で世界をカラフルに!「第36回東京国際映画祭」特集

関連作品