黒沢清監督、小津作品を並べて「個性」を解説!「小津安二郎生誕120年記念シンポジウム」でジャ・ジャンクー監督らとトーク|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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黒沢清監督、小津作品を並べて「個性」を解説!「小津安二郎生誕120年記念シンポジウム」でジャ・ジャンクー監督らとトーク

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黒沢清監督、小津作品を並べて「個性」を解説!「小津安二郎生誕120年記念シンポジウム」でジャ・ジャンクー監督らとトーク

小津安二郎生誕120年を記念した特別企画「小津安二郎生誕120年記念シンポジウム “SHOULDERS OF GIANTS”」が10月27日、三越劇場にて開催。『お早よう デジタル修正版』(59/13)上映後に、映画監督の黒沢清、ジャ・ジャンクー、ケリー・ライカートが登壇し、お気に入りの小津作品について語った。開催中の第36回東京国際映画祭では、特集上映としてワールド・プレミアを含む小津作品のデジタル修復版18作品を上映中。国内外に愛される小津の名作を美しい映像で楽しめる貴重な機会となっている。

【写真を見る】黒沢清監督のお気に入りの小津作品は『宗方姉妹』だそう
【写真を見る】黒沢清監督のお気に入りの小津作品は『宗方姉妹』だそう

シンポジウムのステージに登壇した黒沢監督は『宗方姉妹』(50)をピックアップ。「小津作品には静かでゆっくりとしているイメージがあるけれど、決して静寂に包まれているわけではありません」と話した黒沢監督は「小津作品では派手な事件は起きないけれど、あっち行ったり、こっち行ったりと人がかなり動き回ります。編集のスピードはかなりものだと思います」と小津作品の印象を語った。「まだ作品を観ていない人にネタバレにならないように」としながらも、細かな描写やシーンを解説した黒沢監督。『晩春』(49)、『麥秋』(51)、『東京物語』(53)では、家族は美しいものではないということを描いているとし、親子関係での誤解や夫婦関係の疑心暗鬼などがありつつも、笠智衆に代表されるような人物が出てきて『そうかい』『そんなもんだよ』『仕方ないさ』といったセリフを言うことで、難しいこともあるけれどそれが人生というもの、となんとなくうまくまとまる感じに見せていると解説。

小津作品は決して静寂なものではないと指摘
小津作品は決して静寂なものではないと指摘

しかし、『晩春』『麥秋』『東京物語』の間には『風の中の牝雞』(48)、『宗方姉妹』、『お茶漬の味』(52)といった作品を作っているとし、それらには笠智衆は出演しているけれど、なんとなくうまくまとまる感じに見せるような役割を担う人が出てこないと指摘。人間同士はたとえ家族であっても理解し合えないということを描き、非常に現代的であると語った。この並びを見れば、一見強烈なひとつの個性を持った小津のような作家でも、これほど大きく揺れ動き、さまざまな作品を撮っているということがわかるとし、「これが小津という作家の豊かさです」と説明。さらに、作家というものは、あっちに行ったらまた180度違う方向に行ったりもするし、興行的な失敗や世間の評価によって、作品のテイストを変えながらなんとか作り続けるものだとも話した。

ジャ・ジャンクー監督は『晩春』をセレクト
ジャ・ジャンクー監督は『晩春』をセレクト

ジャンクー監督は『晩春』をピックアップ。小津作品は急激に成長した日本経済の変化を上手に扱っている印象を受けるとし、「産業、経済が発達するなかで、家族関係にどのような影響を与えていくのかを映画のなかで語っている」と説明。『晩春』では、ごく個人的な失望、感傷、悲しみが凝縮され表現されているように感じたとも話した。本作で描かれる父と娘の関係は「依存」だとし、「娘が独立していくなかで、なにが見えてくるのかというと、家族関係にあった温かさは束縛だったということ。そこが胸を打つポイントです」と自身の感想を伝えていた。さらに監督としての小津については「現代を描きながらもその目は未来を見ていた。なにか未来に提示できるようなものを持っていた監督だと思います」とコメントしていた。

日米の文化の違いに触れたケリー・ライカート監督
日米の文化の違いに触れたケリー・ライカート監督

ライカート監督は『東京物語』と『彼岸花』(58)をセレクト。「日本に来て、毎日小津作品を観ています。小津監督の結婚観へのこだわり、お嫁さんへのこだわりを感じました」とニッコリ。『東京物語』はロードムービーのように感じたそうで、「アメリカではロードムービーというとなにかしらの束縛から離れて旅に出ることが多いけれど、小津映画では、出て行った先に居場所がなくて早く帰りたいという。家に帰りたいと思うロードムービーは珍しいし、文化の違いだと思いました」と感想を伝える。小津の晩年の作品から遡って鑑賞していると明かし、「すごくミニマリスト的な映画だと思います。別の作品なのに、同じ俳優が出てきて、同じテーマを、同じセリフを言っていることにすごく驚きました。つまり、こんなに少ない要素でこんなにたくさんのことを言える(伝えることができるのか)と思ったということです。若い頃の映画はもっと忙しなくてたくさんの要素があるけれど、晩年に行くにつれて要素が少なくなっていくのが小津映画だと思いました」と持論を展開。小津作品の変化を逆から見ているのが自身にとって「とても興味深いことでした」と満足の表情を浮かべていた。


小津作品がたっぷり観られる貴重な機会!
小津作品がたっぷり観られる貴重な機会!

またライカート監督は、小津作品で男性が投げた洋服を拾っていく女性の姿が強烈に印象に残っていると話し、「男性の振る舞いに対して、なにかの視点を提示している気もしましたが、いかがですか?」と黒沢監督に質問する場面も。黒沢監督は「多分、小津は面白がってやっているのだと思います。男ってバカだよね、という意味も含めて描写しているのは間違いないと思います」と自身の考えを述べていた。

取材・文/タナカシノブ

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