原田眞人監督らが東京国際映画祭「SDGs in Motion」トーク「映画から生まれる対話によって、世界の見方を変えることができる」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
原田眞人監督らが東京国際映画祭「SDGs in Motion」トーク「映画から生まれる対話によって、世界の見方を変えることができる」

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原田眞人監督らが東京国際映画祭「SDGs in Motion」トーク「映画から生まれる対話によって、世界の見方を変えることができる」

開催中の東京国際映画祭で「TIFF SDGs in Motionトーク」が10月28日、有楽町 micro FOOD & IDEA MARKETにて実施され、SDGsプログラム・キュレイターのアンドリアナ・ツヴェトコビッチと、原田眞人監督、トロント映画祭CEOのキャメロン・ベイリーが登壇。『ハニーランド 永遠の谷』(19)のリューボ・ステファノス監督もリモートで参加した。

【写真を見る】新プログラム東京国際映画祭「SDGs in Motion」が発足!映画業界の違いや目指すべきことなどをそれぞれの視点で語った
【写真を見る】新プログラム東京国際映画祭「SDGs in Motion」が発足!映画業界の違いや目指すべきことなどをそれぞれの視点で語った

「SDGs in Motion」は、国連の「持続可能な開発目標」のうち、目標1(貧困ゼロ)、目標5(ジェンダー平等の実現)、目標13(気候変動対策)、目標16(平和と正義、強固な制度)に沿った映画にスポットライトを当てることをミッションとして発足した新プログラム。ツヴェトコビッチは「映画は単なる芸術ではなく、一つの業界、産業になっています。だからこそSDGsは業界で重要になっているのです」と強調し、SDGsに取り組むことは、映画制作だけでなく配給の仕方やテーマ選びにおいても重要になってくるとした。映画『デイ・アフター・トゥモロー』(04)や「アバター」シリーズが根強い人気を誇っているのは、サステナビリティを扱っているからとし、「いまの若い世代にも人気がある理由はそこにあると思っています」と持論を展開した。

SDGsプログラム・キュレイターのアンドリアナ・ツヴェトコビッチ
SDGsプログラム・キュレイターのアンドリアナ・ツヴェトコビッチ

日比谷ステップ広場で屋外上映会2023として上映されているSDGs in Motion対象作品は「商業的には上映済みの映画です。そういった作品を選ぶことこそが『SDGs in Motion』の考え方です」と話し、ラインナップのうち4作品が女性監督作であるとしながらも「やはり映画の現場には女性が少ないです。映画業界の女性の割合は24パーセントしかいません」と指摘し、「SDGs in Motion」として女性が働きやすい環境づくりにも、なにかしらの形で取り組んでいきたいとアピールした。

原田眞人監督は企画中の作品や、いま作ってみたいテーマなども明かした
原田眞人監督は企画中の作品や、いま作ってみたいテーマなども明かした

SDGs in Motion対象作品として10月31日に『駆込み女と駆出し男』(15)が上映される原田監督は本作制作当時にはSDGsはそれほど話題になっていなかったとしながらも、自身の作品作りにおいては「ジェンダーに関しては、考えています」とコメント。作中で樹木希林が演じている男のような名前を持つ柏屋の女主人、源兵衛役に触れ、「小説では男性ですが、女性が女性を助ける話にしたいと思って(設定を)変えました」と説明。作家の井上ひさしが11年かけて紡いだ時代小説「東慶寺花だより」を元に映画化した本作には、当時の男女の“離縁”事情だけでなく、江戸の風俗や文化もふんだんに盛り込んだとし、当時の作品をいろいろと読んでいる井上の別作品からもたくさんのヒントを得たことも明かしていた。

トロント映画祭CEO、キャメロン・ベイリー
トロント映画祭CEO、キャメロン・ベイリー

トロント映画祭におけるSDGsへの取り組みを問われたベイリーは、トロント映画祭にはミッションステートメント(行動指針)があるとし「映画を通じて人々の世界の見方を変えることを目指しています。世界自体は変えられないけれど映画から生まれる対話によって、世界の見方を変えることができます。そして見方を変えた人たちが世界を変えていくのです」と笑顔を見せ、具体的には「ジェンダーのダイバーシティ、ジェンダーの平等、文化のダイバーシティーにも取り組んでいます。また60万人を動員する映画祭自体のフットプリント(活動の及ぶ範囲)も縮小する試みの一つとして、徒歩10分圏内で行ける会場選びをし、グリーンな映画祭になってきています」と伝えた。

『ハニーランド 永遠の谷』(19)のリューボ・ステファノス監督もリモートで参加
『ハニーランド 永遠の谷』(19)のリューボ・ステファノス監督もリモートで参加

第92回アカデミー賞で国際長編映画賞と長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたドキュメンタリー『ハニーランド 永遠の谷』のステファノス監督には、ツヴェトコビッチから「映画を通じて世界を変えたと感じているか」という質問が。「映画一本で世界を変えられるとは思ってないけれど、映画を通じて対話は生まれると思うし、生まれたと思います」と答えたステファノス監督に、ツヴェトコビッチが「いま、まさにこの瞬間、遠く離れた日本で対話が生まれています」と伝えるなど、本プロジェクト発足により、小さなモーションが生まれたと瞬間を喜んでいた。

楽しそうに談笑する場面も
楽しそうに談笑する場面も

日本の映画業界でのSDGsへの取り組みについて尋ねられた原田監督は、インダストリーレベルでは取り組んでいるとは言えない状況と回答。しかし、個々のクリエイターが意識改革をしている感覚はあるとしながらも、日本には予算や政治的な問題もあるとも指摘。するとツヴェトコビッチが「政治的にデリケートな部分があるかもしれないけれど、もはやそこが物議になるような時代ではない」と意見を述べ、原田監督が何度もNOを突きつけられなかなか実現しないという「除染作業」をテーマにした企画が実現することや、SDGsを扱える映画の予算が上がっていることに期待したいとも話した。

日本では業界レベルではなく個々のクリエイターの意識改革は感じているとコメント
日本では業界レベルではなく個々のクリエイターの意識改革は感じているとコメント

またカナダでは映画の現場では「ケータリングでの食料廃棄の問題にも積極的に取り組んでいる」と語ったベイリーに対し、原田監督は「日本では小さなレベルで(SDGsが)実践されています。(いまの話を聞いて思った)一番の皮肉は、日本では映画作りの現場でケータリング自体が稀。あと10年くらいかかるかもしれません」と苦笑い。ステファノス監督は「サステナをトレンドにしてはいけない」と指摘し、継続することこそが大切とアピールすると、本プロジェクトの発足人、ツヴェトコビッチは「女性のサポートは強く意識しています。自らTIFFに企画を持ち込んでやっと(プロジェクトを)立ち上げることができました。いつかコンペ作品を募るようなものにして、賞を授与できるようになりたいです。初年度なので小さな規模でスタートしましたが、夢を持ってやっていきたいです」と熱い思いを伝え、トークイベントを締めくくった。

第36回東京国際映画祭は11月1日(水)まで。シネスイッチ銀座、丸の内TOEI、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューリックホール東京などで開催中。

取材・文/タナカシノブ

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